日本のICT教育に「危機意識」を 世界に後れ、地域格差も拡大-渡辺敦司-

ICT(情報通信技術)は私たちの生活になくてはならないものとなっており、日本はICT教育でも先進国の一つだろうと思われがちです。ところが、文部科学省の有識者懇談会がこのほどまとめた報告書(中間まとめ)(外部のPDFにリンク)では「各国と比べて遅れている」「強い危機意識を持たなければならない」と指摘しています。どういうことなのでしょうか。

同省の調査(外部のPDFにリンク)によると、教育用コンピューター1台当たりの児童生徒数は2014(平成26)3月現在で6.5人となっており、1年前と同じでした。しかしシンガポールは2010(平成22)年の段階で2.0人、米国は08(同20)年のデータで3.1人、韓国も11(同23)年で4.7人でした。もちろん国によって社会的な事情は違うでしょうが、既に2人に1台が実現している国があるというのですから、そうしたICT先進国には後れを取っていると言わざるを得ません。また、経済協力開発機構(OECD)の「国際教員指導環境調査」(TALIS)でも、「生徒が課題や学級の活動にICTを用いる」指導を頻繁に行っている中学校教員の割合は参加34か国・地域のうちで最下位でした。
コンピューター教室に行けば1人1台が使える環境にある学校は少なくないと思いますが、それでは普段の教科の授業で、使いたい時にすぐ使うことができません。先生がいつまでたっても使おうとしなかったり、効果的な教え方に自信が持てなかったりするのも仕方ないことかもしれません。既にお伝えしたように、タブレット端末の導入や拡張に取り組んでいる自治体は100を超えましたが、一方で整備計画を立てる予定のない自治体が3分の2を占めています。

このため、1台当たり4.3人となっている県がある一方、8人を超えるのも2県あるなど、都道府県格差が広がっています。国は3.6人に1台という整備目標を達成するため毎年1,678億円を措置しているのですが、使い道が限定されない地方交付税であるため、自治体が予算を立てない限りICT機器の整備には使われません。地方財政も厳しさが増す中で、さらに地域間格差が広がるのではないかという心配も広がっています。
政府は2013(平成25)12月、「創造的IT人材育成方針」を策定して2020(平成32)年までに世界最高水準のIT(情報技術)利活用社会の実現を目指すとしましたが、他国のほうが先に進んでいることは既に見たとおりです。次世代のICT活用能力を伸ばさない限り、ICT競争力ランキングで世界18位などという状況を改善することは、なかなか難しいかもしれません。

学校へのICT機器導入が、ICT教育のみならずすべての教科などで「授業革新」をもたらす可能性があることも先に紹介しました。報告書では教育にICTを活用する意義として、
(1)課題解決に向けた主体的・協働的・探究的な学びを実現できる
(2)個々の能力や特性に応じた学びを実現できる
(3)離島や過疎地等の地理的環境に左右されずに教育の質を確保できる
と整理。放課後や校外、自宅などでも学びが広がるとしました。
これ以上、世界に後れを取らないためにも、教育面での早急な対策が求められるでしょう。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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