多様化する大学入試 高校生の保護者が知っておくべき大学受験の「今」と関わり方【後編】‐木村治生‐

【前編】では、高校生の進路選択で保護者がどう関わればよいかについてお伝えしました。後編となる今回は、大学入試の変化の概況と、子どもをよりよくサポートするために保護者が意識するべきことを中心に、ベネッセ教育総合研究所・高等教育研究室長の木村治生さんに伺いました。



保護者の時代とは様変わりしている大学入試 しっかりと情報収集を

今の大学入試は、保護者のかたが受験したころとはずいぶん変わっています。子どもの進路選択を支援・助言するためにも、保護者のかたが入試の変化について知っておくことは、とても大切です。
最も大きな変化は、入試の多様化です。この動きは、今後も加速されると予想されます。たとえば、推薦入試やAO入試の増加。今では、私立大学の定員の半数が推薦入試・AO入試で合格しています。そこでは、面接や小論文、プレゼンテーションなど、ペーパーテストとは異なる方法が選抜に取り入れられています。このような多様な入試が難関大学にも広がりつつあり、国立大学では2018(平成30)年度までに定員の3割まで広げる目標も。2016(平成28)年度には東京大学が推薦入試を、京都大学が特色入試を導入します。

入試改革のねらいは、自分の大学の方針に合った学生や多様で能力の高い学生の確保にあります。各大学が「アドミッション・ポリシー」として、求める学生の人材像と入学者選抜の方針を策定し、ホームページなどで開示するようになったことも大きな変化の一つといえるでしょう。多くの大学で、知識や技能が目標に達しているかに加えて、思考力・判断力・表現力などが十分かを学生に問おうとしています。そうしたことが測れる入試に改善しようという動きが、徐々に始まっているのです。

大学入試は大きな変化の中にあります。当事者である高校生はもちろんですが、保護者も入試に関する情報収集を意識的に行うことが大切だと思います。



入試だけでなく、大学自体が改革期にある

収集すべきは、入試に関する情報だけではありません。かつては「入るのは難しいが、出るのは簡単」といわれた日本の大学。しかし、社会にとって有能な人材を輩出する機関として機能するように、大学自体が変わることを求められています。それは資格や技能など短期的に職業に役に立つ力を育てることだけではありません。批判的に物事を考える思考力や、文化の異なる相手とコミュニケーションをして「答えのない問い」に解を導き出す力など、社会人として中長期的に活躍する力を養っていくことが求められています。

そのような社会の変化に合わせて、大学ごとに学部や学科を再編しようという動きもあります。グローバル化に対応するために外国語や国際関係の学部・学科が新たにつくられたり、地方創生の必要性が高まる状況をふまえて地域の課題解決や人材育成などをめざす学部・学科が創設されたりといった具合に、大学が教育内容を変えるケースが増えています。お子さんが希望している大学でも、そこで学べることが変わるかもしれません。ですから、大学ごとの教育内容に関する情報も、こまめにチェックしておく必要があります。



「知識・技能」だけでは不十分 今の入試で問われている力とは?

それでは、このような大学入試や大学教育の改革は、なぜ行われているのでしょうか。それは、子どもたちが未来の社会で活躍するうえで必要だと考えられているからです。
時代を見渡すと、高度経済成長期の大量生産を支える人材から、少量でも付加価値が高いものを生み出す人材へと、社会で求められる人材像が変化しています。それを受けて、一定の知識・技能を備えた人材から、知識・技能を活用して課題解決ができる人材の育成に、教育の目標が変わろうとしています。

高校以下の教育では、習得した知識・技能を活用する力が重視され、思考力・判断力・表現力を育成することが学習指導要領の中でうたわれています。それに伴って入試も、思考力・判断力・表現力を問う問題が増えており、受験生の多様な力、その子自身の思考や判断を問うような流れが強まっています。そのような入試を突破することは、目の前の課題をクリアするだけでなく、「自立」というゴールの達成や未来の活躍にも役に立ちます。保護者のかたにはこのことを意識して、入試変革期における我が子の受験をサポートしていただきたいと思います。


プロフィール


木村治生

https://researchmap.jp/hrkmr/

これまで、子ども・保護者・教員を対象にした調査に携わり、子どもの生活や学びとそれにかかわる周囲の大人の意識・行動に関する研究を行う。
上智大学大学院(教育学修士)、東京大学社会科学研究所客員准教授(2014~17年)・客員教授(2021~22年)、追手門学院大学客員研究員(2018~21年)、横浜創英大学非常勤講師(2018年~23年)。

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