子どものだだこね対処術【前編】まずは子どもの心の内を知ろう

「おかし買ってー」「このお洋服はイヤ!」など自己主張をして、それがとおらないと、泣いたり、暴れたり、はたまた黙り込んで動かなかったり……。そうしたお子さまに手を焼いているご家庭は多いのではないでしょうか。でも、だだをこねるのには子どもなりの理由がある、と発達心理学が専門の白百合女子大学の秦野悦子先生。だだをこねる子どもの心の内について、秦野先生に伺いました。



だだこねには必ず理由がある!

子どもはどんなときにだだをこねるのでしょうか。大きく3つの場合に分けられます。

●一つは、子どもが自分の要求をとおすために、その振る舞いが適切かどうかをまだ知らないということがあります。たとえば、自動販売機の前でジュースが欲しいと泣き叫ぶとか、信号が赤なのに早く渡りたがるとかといった場合です。また、イヤなことから逃げたいといった場合にも、その不安がだだこねとして表れることがあります。

●二つめは、人を試すようなわがままを言う場合です。保護者にはわがままを言ったりしないけれども、たまに会う祖父母には思いっきりだだをこねたりする場合があります。相手を見て、自分の要求がとおるかとおらないかを判断して、わがままを言うのです。

●三つめは、保護者に甘えたい時です。保護者の関心を引くために、わざと怒られるようなことをしたり、困らせるようなことをしたり。「幼稚園に行きたくない」と言っても、本当に行きたくないわけではなく、お母さんに抱きしめてほしいことを言葉にしてうまく伝えられずに、だだをこねて気持ちを表しているのです。

子どもは社会的に未成熟ですから、自分がこうしたいという思いしかなく、適切かどうか判断したり、他者の心情を理解したりすることは、まだ十分できていません。年齢相応の振る舞い、善悪の判断、社会のルールやモラルなどは、子どもが成長していく中で、保護者や社会が教えていくものです。ですから、子どもは、自分がこうしたいと思うとおりになるように、大人から見れば理不尽とも思えるほどに過剰な行為で要求をとおそうとします。だだこねは、子どもの欲求と、大人や社会の価値判断がぶつかったときに起きるともいえるでしょう。



発達過程によってだだこねにも特徴が

「魔の2歳児」ともいわれますが、発達過程に応じてだだをこねる様子は変わっていきます。子どもの個性にもよりますが、ここでは年齢別に特徴を見ていきましょう。

1歳を過ぎると、「こうしたい」「あれはいや」という自我が芽生えてきます。1歳半を過ぎて、言葉を覚えてくると、その欲求を言葉で伝えるようになり、自分でなんでもやりたがるイヤイヤ期に突入していきます。2歳台では、保護者やきょうだいのすることに憧れて同じことをしたがりますが、したいと思っても自分ではやりとげられないことが大半です。また、危険なことや、善悪の判断ができません。そのため、自分のしたいことが制止されたとしか思えず、「イヤ」「したい」と泣き叫ぶのです。

それが、3歳台になると、まず自力でできることが増えていきます。また、言葉の理解が進みますから、保護者がきちんと説明をすれば、状況判断や要求が受け入れられないことを納得できる場面も増えていきます。そうしたことから、イヤイヤ期が落ち着いていきます。
さらに、4歳台になると、過去・現在・未来と時系列で、できることや物事を考えられるようになるので、「今はだめだけど、誕生日になったらいいよ」「お父さんが帰ってきてからね」ということも理解でき、気持ちのコントロールのしかたを学んでいきます。

5歳以上では物事の理解がさらに進んでいきます。必要以上にだだをこねて、これという理由が思い当たらなければ、保護者に甘えたいという欲求の表れと思われます。

そして、小学生になると、子どもの社会化がいっそう進み、友だちとの関係が築かれ、家庭以外に子どもどうしの価値観が入ってきます。周りからどう思われるかもますます気になっていきますので、わがままは落ち着いてきます。ですから、よほど強い自己主張をするようであれば、言葉にできていない何かを抱えているのかもしれません。保護者の理屈で子どもの気持ちを先取りしないように配慮し、理由を探っていきましょう。

だだをこねるというのは、自己主張の表れですから、それ自体は成長の証でもあります。保護者が先回りをして、「こうすべき」とあるべき姿を教えすぎてしまうと、自分がしたいことの前に、保護者がどう思うのかをうかがうようになってしまう場合もあるからです。

お子さまがだだをこねたら、その思いを否定したり、頭ごなしに叱ったりせず、伝えたい思いは何かを探り、子どもの心に寄り添ってみてください。ここで「できないのだから無理でしょ」と言っても、子どもはヒートアップするだけです。もし、保護者が力を貸せばできるようなことであれば、子どもが「自分でやった!」と思えるようにさりげなく援助して、子どものやりたいことを実現させてください。無理なことであれば、時には自分の要求が受け入れられないこともあること、社会のルールや善悪としてできないことがあると経験し、要求を相手にどのようにして伝えればよいのか、要求が受け入れられなかった時に自分の気持ちをどうコントロールするのかを学習する機会でもあるという、しつけの場面としてとらえていただければと思います。


『男の子の気持ちがわかる ママの心が楽になる 男の子の育て方』『男の子の気持ちがわかる ママの心が楽になる 男の子の育て方』
<日本文芸社/秦野悦子/1404円=税込>

プロフィール


秦野悦子

白百合女子大学教授。専門は発達心理学(言語発達、障害児のコンサルテーション、子育て支援)。臨床発達心理士。わかふじ幼稚園副園長。主な著書に『心と体が育つ親子遊び』『最新しつけ大百科』(以上ベネッセコーポレーション、編著)などがある。

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