厳しい「ひとり親世帯」に支援が急務

子どもの貧困問題については、当コーナーでもたびたび取り上げてきました。貧困家庭に育った子どもが、十分な教育や学力を得られず、社会に出ても十分な収入を得られない、「貧困の連鎖」を増やさないためにも、対策が急務です。そうしたなか、心配になる調査結果が、厚生労働省所管の独立行政法人、労働政策研究・研修機構から発表されています。

厳しい「ひとり親世帯」に支援が急務


第3回子育て世帯全国調査」(2014<平成26>年11月時点)によると、暮らし向きが「大変苦しい」と回答した割合は、母子・父子家庭など「ひとり親世帯」で27.3%と、両親などがそろった「ふたり親世帯」(11.8%)の倍以上となっています。ひとり親世帯の多くを占める母子世帯では、子育てをしながら女性が就職するには依然として不利な環境にあるのが現状のため、低収入に甘んじるしかなく、生活も苦しいものと見られます。子どもの数が多いほど生活はより苦しくなっています。
注目すべきは、ひとり親世帯の生活がますます苦しくなる格好で、ふたり親世帯との格差が拡大していることです。税込所得300万円未満の「低所得世帯」の割合は、ふたり親世帯で4.6%にすぎず、しかも過去の調査(2011、12<平成23、24>年)と比べると年々減少しているのとは対照的に、ひとり親世帯では59.9%と半数以上を占めるだけでなく、3年で約7ポイントも上昇しています。

そうした状況を反映して、平均的な収入の半分以下で暮らしている「相対的貧困率」の割合は、ふたり親世帯で7.3%にすぎず、しかも前回に比べ微減しているのに対して、ひとり親世帯では2年前より15.8ポイントも増え、54.2%と半数を超えました。子育て世帯全体でも13.2%と7~8世帯に1世帯が相対的貧困状態にあるという数値ですから、決して軽視してよい結果ではありません。
政府は2014(平成26)年、子どもの貧困対策推進法を施行するとともに、法に基づく大綱を閣議決定し、子どもの貧困対策に乗り出しました。しかし大綱は総花的で、2015(平成27)年度予算でも十分な施策が盛り込まれなかったとの指摘もあります。
2012(平成24)年末に発足した第2次安倍晋三内閣による「アベノミクス」効果で景気が回復基調にあるとされながら、その実感はなかなか津々浦々に浸透していないことは、安倍首相自身も認めているところです。しかも、そのしわ寄せが貧困家庭に集中しているとしたら、大きな問題です。

貧困の連鎖は、個人の問題にとどまりません。将来の納税額を減らすだけでなく、社会保障費を増大させるという、国・社会全体の問題につながるからです。だからこそ、概算要求が出そろった2016(平成28)年度予算では、教育費の負担軽減策も含め、貧困の連鎖を少しでも解消するような有効な施策を打ち出すことが求められるでしょう。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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