貧困・ひとり親家庭への支援が急務

経済格差の拡大や家庭の貧困などによる、子どもたちへの影響が、大きな課題となっています。文部科学省や厚生労働省は、経済的な理由や家庭の事情により学習が遅れがちな子どもたちに対する、学習支援などの事業に乗り出しました。夏の来年度概算要求では、今以上の支援策が盛り込まれることが望まれます。

文科省と厚労省が事業

政府は2014(平成26)年に「子供の貧困対策に関する大綱」を閣議決定しており、これに基づいて、文科省は2015(同27)年度から「地域未来塾」という事業を実施しています。経済的な理由や家庭の事情により学習が遅れがちな中学生や高校生などを対象に、教員志望の大学生、学習塾などの民間事業者、地域住民やNPO関係者などがボランティアとなって、放課後や休日などに学習を支援するというものです。2015(平成27)年度は中学校区2,000か所、2016(平成28)年度には中学校区3,000か所で実施されており、2019(同31)年度までに全国の中学校区の約半分に当たる5,000か所まで広げる計画です。

また、厚生労働省も、ひとり親家庭の子どもの学習支援事業を2015(平成27)年度から拡充させており、学生ボランティアなどを家庭教師として、ひとり親家庭の子どもたちの下に派遣するなどの取り組みをしています。この他、地方自治体の間でも教員志望の学生ボランティア、学習塾関係者などを活用して、子どもたちの学習支援に乗り出すところが増えています。ひとり親家庭や貧困家庭などに対応した子どもたちへの支援は、今後もさらに望まれるところです。

8月末には来年度予算の概算要求が各省庁から出されることになっていますが、子どもたちの学習支援や生活支援に関する施策の一層の拡充や追加が求められているといえるでしょう。

自己責任ではなく社会全体の問題

ところで、なぜ、ひとり親家庭や貧困家庭などを中心とした学習支援などの施策が必要なのでしょうか。それは、家庭の経済格差がそのまま子どもの学力格差となり、将来的に階層の固定化につながりかねないからです。

文科省の全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の結果を分析したお茶の水女子大学を中心とする研究グループによると、経済力の高い家庭の子どもは、経済力の低い家庭の子どもよりも全国学力テストの成績がよい……という分析結果が出ています。さらに問題なのは、家庭で数時間勉強する経済力の低い家庭の子どもと、まったく家庭で勉強しない経済力の高い家庭の子どもを比較した場合、まったく勉強しないにもかかわらず経済力の高い家庭の子どものほうが、全国学力テストの成績がよかった……ということです。つまり、経済力の低い家庭の子どもは、自力では学力を向上させるのが難しいということです。

ひとり親家庭や貧困家庭などの問題を「自己責任」として放置すれば、その子どもたち、さらには次の世代の子どもたちへと貧困による学力格差が受け継がれ、貧困階層が固定化される可能性があります。そうなると社会の持続可能性が損なわれ、社会全体が「負のスパイラル」に陥りかねません。

経済格差に起因する子どもたちの貧困問題は、いまや社会全体の問題であるといえます。決して「自己責任」で済ませることはできないのです。

  • ※ひとり親家庭への総合的な支援のための相談窓口強化における教育関係部局等との連携について(通知)
  • http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/1371865.htm

(筆者:斎藤剛史)

プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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