教育の情報化の自治間体格差解消を 文科省が通知‐斎藤剛史‐

学校教育では情報教育の充実とともに、情報機器の導入・整備など、教育の情報化に向けた教育環境の整備が急務となっています。それにブレーキをかけているのが自治体格差であることは、以前の当コーナーでお伝えしたとおりです。このため文部科学省は、教育の情報化における自治体格差を解消するよう、都道府県教育委員会などに通知(外部のPDFにリンク)しました。自治体格差の原因はどこにあるのでしょうか。

政府は第2期教育振興基本計画の中で、2017(平成29)年度までに公立学校の児童生徒3.6人に教育用コンピューター1台を整備するという目標を掲げています。ところが文科省の「教育情報化実態調査(速報)」によると、2015(平成27)年3月現在、全国平均で6.4人に1台という状況にとどまっています。問題を深刻にしているのが自治体格差で、最高は佐賀県の2.6人に1台、最低は愛知県の8.4人に1台で、都道府県間に大きな開きがあります。
文科省などは「教育のIT化に向けた環境整備4か年計画」(2014・17<平成26・29>年、外部のPDFにリンク)を策定し、公立学校の情報化整備のため年間1,678億円、4年間で合計6,712億円の財源を措置しています。しかし、地方自治体が自由に使える「地方交付税」に計上されているため、ほかの事業に財源を回してしまう自治体では、学校に情報化整備の予算が来ないことが、自治体格差の出る理由です。

これに対して文科省は通知の中で、地方公共団体間の格差拡大に強い危機感を表明し、公立学校での教育の情報化に積極的に取り組むよう、都道府県教委などに要請しました。ただし、問題はそう簡単ではないようです。公立学校の多くを占める小中学校は、市区町村教委の所管だからです。コンピューターの整備など教育の情報化では、市区町村の取り組みが重要になります。このため文科省は、先の実態調査の中で、速報段階では従来は公表していなかった市区町村別の整備状況を示し、格差の実情を明らかにしました。それだけ文科省は、市区町村間の格差拡大を憂慮しているといってよいでしょう。

実際に整備状況を見ても、たとえば東京都は、全体で児童生徒5.5人に教育用コンピューター1台と全国平均を上回っていますが、市区町村ごとでは荒川区が1.1人に1台に対して、練馬区や大田区は13.5人に1台などとなっており、同じ都内でも大きな差があります。このように、教育の情報化の実態は、都道府県ごとの平均だけを見ても正確にはわからず、市区町村ごとに実態を見る必要があります。今回の文科省の通知も、市区町村に教育の情報化の整備を促すことが狙いだと思われます。

これからの子どもたちにとって、情報教育や情報機器を活用した教育が、今以上に必要になることは確実です。にもかかわらず、市区町村ごとに情報機器などの整備状況に開きがあれば、将来的に子どもたちの教育格差につながることにもなりかねません。保護者なども地元の市区町村の整備状況などに関心を持つ必要があるでしょう。


プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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