遠足や移動教室での乗り物酔い対策【後編】

前編では、乗り物酔いの歴史と、乗り物酔いの原因について坂田英明先生にお聞きしました。後編では、バスに乗る前日にできる具体的な乗り物酔い対策についてご紹介します。



乗り物酔い対策9つのポイント

遠足や移動教室では、バスでの移動が多いと思います。そこで、ここではバスに乗車した際の乗り物酔い対策を例にご紹介しますが、自家用車や船でも基本的な考え方は同じですので、ぜひ参考にしてみてください。

~バスに乗る前~

(1)「酔わない」おまじないをかける
保護者が「あなたは酔いやすいから……」「気分が悪くなったらすぐ先生に言うのよ」などと過度に注意するのはよくありません。乗る前から不安になってしまうと、酔った経験が思い起こされ、よけいに酔いやすくなってしまいます。
お子さま自身が「自分は酔わない!」と思えるように、「絶対大丈夫だから、楽しんできてね」など、酔わないおまじないをかけてあげましょう。昔からの民間療法「梅干しをおへそに貼る」などもこの意味では活用できます。バスの匂いが苦手なお子さまには、好きな匂いのする文房具などを、お守りがわりに持たせるのも一案です。

(2)睡眠を十分に取る
睡眠不足だと自律神経(昼間に活動している時に活発になる交感神経と、夜間に寝ている時に活発になる副交感神経の二つに分けられる)が乱れるため、乗り物酔いをしやすくなります。十分な睡眠を取らせて、体調を整えておきましょう。

(3)食事は乗る3時間前に腹7分目までで済ませる
満腹でも空腹でも、自律神経は安定しません。胃や腸に負担をかける食事は避け、消化のよいものを食べさせます。

(4)しょうが汁を乗る1時間前に飲む
しょうがに含まれるジンゲロールという辛味成分には、腸の働きを安定させ、吐きにくくする作用があります。辛い物が苦手なお子さまには、すりおろしたしょうがを、紅茶やみそ汁などに入れて飲ませましょう。

(5)酔い止めの薬を飲む
薬の効き目ももちろんですが、「薬を飲んだから大丈夫」という安心感が得られ、より効果的です。子ども用の酔い止め薬も市販されているので、お子さまの年齢に合わせて、乗る1時間前ごろに飲ませてあげましょう。その際は、乗り物に乗る前に薬の効き目が切れてしまわないように、服用上の用法用量などをきちんと読んで服用させてください。

(6)体を締め付ける服装は避ける
おなかを圧迫するような服装はやめましょう。バスの中でリラックスできると、酔いにくくなります。お友達とおしゃべりを楽しんだりして、適度に盛り上がると、気も紛れてたいへん効果的です。

~バスに乗っている時~

(7)乗車中はあごを引いて座り、動かないものを見る
あごを引いた姿勢で座ることにより、前編でお話しした「リンパ液」が水平に保たれ、酔いにくくなります。動いているものを見ていると酔いやすくなるので、遠くの動かない景色、たとえば山をボンヤリと見るのがおすすめです。
外を見るのが困難な場合は、目をつぶるのも有効ですが、カーブが多い道では、予測できない揺れに振り回されると酔いやすくなるため、進行方向が見える時には、カーブの揺れに合わせて体を軽く傾けるとよいでしょう。

(8)読書やスマホの操作、ゲームをしない
揺れているバスや船の中で、本を読んだりゲームをしたりすると、文字や画面がチラチラして目から強い刺激が入ることになり、酔いが助長されてしまいます。

(9)可能ならガムなどを噛み、口の中を乾燥させない
緊張していると、自律神経が不安定になり、口の中が乾燥してしまいます。可能であればガムやするめを噛んだりして、唾液(だえき)を出すようにしましょう。ガムが難しい場合は、水を少し口に含むようにしてください。

事前に対策をしていても乗り物酔いをしてしまった場合は、(7)の姿勢を保って、できるだけ静かに過ごしましょう。どうしても心配な場合は酔い止めのほかに吐き気止めの薬もありますので、事前に医師に相談してみてください。また、ペパーミントの香りには吐き気を抑える効果があるため、ハンカチなどにハッカ油を垂らして匂いを嗅ぐのもおすすめです。



「乗り物酔いしない!」自信をつけてあげることが重要

消化のよいものを食べさせたり、酔い止めを飲ませたりと、お子さまが乗り物酔いにならないために、保護者のかたが手助けをする場面も多いでしょう。ただ、あまり乗り物酔いを意識させるようなことを言い過ぎてしまうと、暗示にかかったように、本当に酔ってしまいます。

できれば、お子さまが酔った時の対応を先生にこっそりお願いしておき、保護者のかたは「絶対に酔わないから大丈夫」と、送り出してあげてください。
万が一酔ってしまった時は、「10分乗っても大丈夫だったね」などと酔わなかった時間を取り上げると、自信にも繋がります。また、乗り物酔いをしなかった時は、「やったね! もう大丈夫だね」などとほめ、酔わない自信をつけてあげるのが何よりの克服法になります。


プロフィール


坂田英明

埼玉医科大学卒業。ドイツ・マグデブルク大学耳鼻咽喉科研究員、埼玉県立小児医療センター耳鼻咽喉科を経て、現在は目白大学保健医療学部教授、目白大学耳科学研究所クリニック院長。NPO法人第8神経を考える会理事。

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