知っておきたい 子どもの食物アレルギー【第2回】近年増えているアレルギーと緊急時の対策
近年、関心が高まっている食物アレルギー。
近年増えている「口腔アレルギー症候群」と「食物依存性運動誘発アナフィラキシー」、知っておきたい緊急時の対応について、伊藤浩明先生に解説していただきます。
果物を食べて口の中がピリピリ? 口腔アレルギー症候群(OAS、果物アレルギー)
食物アレルギー原因食品として、近年増えているのが果物。その根底にあるのが、花粉症です。花粉のアレルゲンに対してできたIgE抗体が、果物や野菜の中にある、花粉アレルゲンと類似したたんぱく質を認識することから起こります。花粉症の発症と同時に起こるケースが多く、小学生以上で多くなります。
特定の野菜や果物を食べた直後に、口の中がピリピリしたり、のどに違和感を覚えたりするのが特徴です。大量に食べなければ、それ以上重くなることはまずありませんので、「変だな」と感じたらすぐに食べるのをやめましょう。
種類が近い植物は、タンパク質の構造も似通っているため、たとえばメロンに症状が出た場合、スイカやキュウリなどにも症状が出る場合があります。そのため、食べられないものが増え、病気が重くなっているような錯覚を抱きやすいのですが、過度な不安を持たないことが大切です。また、加熱したものやジュースなら、症状は誘発されません。
これまで小麦は大丈夫だったのに、なぜ? 食物依存性運動誘発アナフィラキシー
食べただけでは症状は起きませんが、食後に運動することによって、アナフィラキシーが誘発されるタイプです。主なアレルゲンは小麦、えび・かに類です。
このタイプがやっかいなのは、これまで食物アレルギーとは縁がなかったのに、部活などで激しい運動をするようになる小・中学生時代に初めて発症するケースも多いことです。また、幼いころの食物アレルギーはほぼ治っていたのに、食後の運動をきっかけに再発するケースもあります。
残念ながら、食物依存性運動誘発アナフィラキシーの、初回の発症を予測する方法はまだありません。予期せぬ子に突然起きるため、学校現場も対応に悩んでいるというのが現状です。
2回目以降の症状の誘発を防ぐためには、まずアレルギー専門医の診断を受け、原因食品をきちんとつきとめることです。そのうえで、運動前には原因食品を食べない、食べた場合は食後2~4時間の運動を避ける、「変だな」と感じたらすぐ休むなどの注意が必要です。
食物アレルギーが起きたら? 緊急時の対応
現在、食物アレルギーを持つ子どもは20人に1人。どの学校にも、アナフィラキシーのリスクを抱えた子どもたちが在籍しています。また、食物依存性運動誘発アナフィラキシーのように、これまで発症の経験のない子どもが、突然重い症状で倒れるケースもあります。
2012(平成24)年、東京都調布市の小学校で、給食のあとに体調不良を訴えた5年生の児童がアナフィラキシーショックで亡くなるという痛ましい事故が起こりました。これ以後、医療・教育現場では、子どもたちをこのような事故から守るにはどう対応すべきか、検討を重ねてきました。
その結果、まとめられたのが東京都の「食物アレルギー緊急時対応マニュアル」(外部のPDFにリンク)です。
このマニュアルの画期的な点は、「意識もうろう」「のどや胸が締め付けられる」「がまんできないお腹の痛み」など、緊急性の高い症状が見られないかどうか5分ごとにチェックすることで、対応のタイミングを逃さないようにする点です。
緊急時、初期対応のタイミングを逃さないために
食物アレルギーの症状は、刻一刻と変化します。子どもが「体が変」と訴えた時点で、アナフィラキシーの可能性も考えて安静にさせ、冷静に経過を観察することが大切です。
アナフィラキシーは急に起きるわけではなく、最初は小さなじんましんやのどの痛みなど、軽い症状から始まります。じんましんが全身に広がる、おう吐や下痢が始まるなど、ひどくなる経過が見られたら、救急車の要請を考慮に入れる、エピペン®※を手元に置くなどの準備をしておく必要があります。
「怖いこと」はなるべく見ないようにし、希望的観測のほうに行きがちなのが人間の心理ですが、緊急性の高い症状がないか見守ることで、対応の遅れを防げるのです。
食物アレルギーを持つ子どもを守るためには、周囲の理解が不可欠です。すべての保護者のかたに、緊急時の対応についてぜひ知っておいていただきたいと思います。
※アナフィラキシーのすべての症状を和らげるアドレナリン自己注射薬。アナフィラキシーの危険性が高い患者に処方されています。