知っておきたい 子どもの食物アレルギー【第1回】食物アレルギーって何?
近年、関心が高まっている食物アレルギー。今回から、食物アレルギー専門医である伊藤浩明先生に、食物アレルギーの基礎知識と、最新治療の考え方について、3回シリーズで解説していただきます。
第1回は、現在子どもが「食物アレルギー」と診断されていない保護者のかたにも、ぜひ知っておいていただきたいポイントについて取り上げます。
食物アレルギーとは
食物に対して、体を守るはずの免疫システムが過剰に反応して起きる症状をいいます。
原因となる食物が体に入ってくると、食物に対してつくられたIgE抗体が働き、じんましんやかゆみ、むくみなどのいわゆる「アレルギー症状」が起こります。
食物アレルギーの代表的なタイプは、「即時型」と呼ばれるもの。原因食品を食べてすぐ、遅くとも2時間以内に症状が出ます。
食物アレルギーの最も重い症状がアナフィラキシーで、皮膚や粘膜だけでなく、呼吸困難や意識障害など、強い症状が複数の臓器に表れた状態を指します。アナフィラキシーは急速に進行することがあり、迅速な対応が必要となります(緊急時の対応については、第2回で詳しく取り上げます)。
また、「果物アレルギー」に多い口腔アレルギー症候群、食後に運動が加わることによって起こる食物依存性運動誘発アナフィラキシーといったタイプもあります。これらは、第2回で詳しく取り上げますが、小・中学生以上になってから発症するケースも多いのが特徴です。
これってアレルギー? 食物アレルギーと紛らわしい症状
特定の食物中のたんぱく質(アレルゲン)に、IgE抗体が反応して起こるのが食物アレルギー。何かを食べたあと、じんましんが出たからと言って、食物アレルギーとは限りません。
たとえば、鮮度の落ちたサバなどを食べたあとに、じんましんが出ることがあります。そのため、「青魚はアレルギーを起こしやすい」と誤解されがちですが、これは魚肉の中に溜まった化学物質ヒスタミンによる中毒の一種で、新鮮なものなら問題なく食べられるケースがほとんどです。ちなみに魚肉に含まれるたんぱく質にIgE抗体が反応する「魚アレルギー」の場合は、魚の皮や身の色に関係なく起こります。また、牛乳を飲むとおなかを壊す症状の多くは消化不良の一種で、牛乳アレルギーとは異なります。
食物アレルギーの診断 血液検査が陽性でも「食物アレルギー」とは限らない
「食物アレルギーである」という診断には、
●特定の食物を食べた時、明らかに症状が出ること
●血液検査や皮膚試験で、その食物に対してIgE抗体があると証明されたこと
の2点が必要な条件となります。
つまり、血液検査で「IgE抗体が陽性」という結果が出たとしても、食べて症状が出るとは限りません。たとえば、既に「卵アレルギー」と診断されている場合、そばなど、食物アレルギーを起こしやすいと知られている食品は「怖くて食べたことがない」といったケースはよくあります。そこで血液検査を受けたところ、そばのIgE抗体が陽性と出た場合、「私はそばを食べたら大変なことになる!」と思ってしまいがちですが、実際はそれで「そばアレルギー」と診断されたわけではありません。
食物アレルギーの検査と診断までの基本的な流れは、以下のとおりです。
●STEP1 問診
アレルギーが出た時の状況や食物日誌を参考に、原因食物を推定します。
↓
●STEP2 検査
血液検査や皮膚試験により、疑わしい食品について、IgE抗体の有無を証明します。
↓
●STEP3 食物経口負荷試験
STEP2で陽性となった食品を、病院内で少しずつ食べてみて、症状が出るか調べる検査です。
原因食物の確定や、食物制限のレベルを評価するために行います。
↓
●診断確定
原因食物をどの程度除去する必要があるか、確定します。
問診や血液検査で、アレルギー反応が出る確率が9割以上と予測される場合、食物経口負荷試験はスキップすることがあります。
食物経口負荷試験で診断の確定を
STEP2の血液検査は広く普及していますが、結果が陽性でもアレルギー反応が出ないこともあり、診断を確定できないという欠点があります。
ですから、血液検査で陽性と出た食品を「心配だから」とすべて除去していると、かえって子どもの食生活に無用な負担を強いてしまう可能性があるのです。
一方、食物経口負荷試験は信頼性が高い検査ですが、食物アレルギーがあると推定されるものを実際に食べるわけですから、強い症状を引き起こす可能性もあります。そのため、専門医のもと、症状が出ても十分対応できる体制で行う必要があります。
食物アレルギーが疑われる場合、自己判断せずに専門医に相談し、一連の検査で診断を確定してもらうことをおすすすめします。