知っておきたい 子どもの食物アレルギー【第3回】食物アレルギーと診断されたら

近年、関心が高まっている食物アレルギー。
食物アレルギーと診断されているお子さまの保護者向けに、近年の食事療法の方向性について、伊藤浩明先生に解説していただきます。



治る可能性を信じて定期的に受診を

乳幼児期に始まった食物アレルギーの多くは、成長とともに治ることが期待できます。たとえば卵の場合は3歳までに約40%、牛乳の場合は約60%の子どもが治癒していきます。ピーナツ、えび・かに、そばなどは治りにくいアレルギーですが、経口免疫療法(※)では治癒した例もあります。
原因食品を除去した状態に慣れると、そのまま除去を続けがちです。しかし、安全に食べられる量がわかれば不安も和らぎますし、外食や旅行を楽しむ機会も増します。アレルギーの重さは変化していきますので、ぜひ定期的にアレルギー科を受診してください。

※経口免疫療法(OIT):重症者を対象とし、原因食品を計画的に食べて治療を行う療法。入院して集中的に摂取量を増やす方法を、急速経口免疫療法ともいう。「食物アレルギー診療ガイドライン」では、「専門医が体制の整った環境で研究的に行う段階の治療」と位置付けられている。



「うっかり食べちゃった!」は貴重な経験

問診で重要なのが、「誤食」の経験です。「お兄ちゃんの卵焼きを取って食べてしまった」とか、「おばあちゃんがうっかり、卵入りのお菓子をあげてしまった」など、ひやっとする経験をたくさんされているかたも多いと思いますが、「お医者さんに怒られる」などと思わずに、ぜひ詳しく教えてください。「卵ぼうろ一粒で顔が真っ赤になった」のなら、向こう1年間は除去が必要ですし、「ちょっと食べたけど平気」だったなら、解除を目指して次のステップに進む判断の決め手になります。



おいしく治す 食品除去の解除を目指して

食事療法の基本は、「必要最小限の除去」です。最近はそこから一歩進み、食べられるものを積極的に食べることで解除を目指す取り組みが多くの病院でなされています。指導の方法は、病院によってさまざまです。
私たちの病院では、アレルギーの原因食品そのもの(卵、牛乳、うどん等)を使って、安全性が確認された量を計画的に食べていき、症状が出ないことを確認しながら、少しずつ量を増やしていく「食物アレルギー攻略法」を実践しています。
ただし、対象者は病院が定めた基準を満たした人に限られます。解除を進めるにあたっては、必ず専門医の指導を受けてください。



「食物アレルギー攻略法」の実際

食物アレルギーを持つ多くのかたは、食べられる加工食品などを自分で確認しながら、経験を頼りに食べられるものを増やして、解除を進めていきます。「攻略法」は、この経験をもう少し計画的にして、食べられるアレルゲン量を確認しながら増量していく方法です。「攻略法」の名には、恐る恐る食べ進めるのではなく、明確な戦略を持ってアレルギーを克服していこうという思いを込めています。

攻略法では、経口負荷試験の結果から安全に食べられる量を設定して、摂取を開始します。たとえば、20分加熱したゆで卵の白身を2グラム、あるいはうどんを5gというように、アレルゲン食品そのものを計量して正確に食べ始めます。摂取記録を日誌につけていただき、10回食べて症状が出なければ次は2.5グラムなど、主治医と相談しながら増量のペースを決めて食べ進めます。一定の摂取量に到達したら、食べてもよい加工食品は決められます。たとえば牛乳の場合、10cc飲めるようになればハムを1枚食べてOKですし、バターは50グラム使っても大丈夫。脱脂粉乳を含む食パンも食べられます。「トーストに、好きなだけバターを塗っていいよ」と言えるわけです。どんな料理に応用できるかは、管理栄養士がアドバイスします。
原因食品2グラムを食べられれば、その後約2年間で解除まで行く患者さんは多いですね。



「食べるのが怖い」という気持ちと向き合って

とはいえ、子どものつらい症状を経験した保護者の中には「自分の手で卵を料理して食べさせるのは怖い」というかたもいらっしゃいます。それは、親として当然の気持ちだと思います。ご本人のペースに合わせて、少しずつ励ましながら、何年もかけて解除を進めることもしばしばです。
また、子どもの卵アレルギーがわかって以来、家で卵を料理したことがないというケースもよくあります。たしかに、卵のついた食器に触れただけで発症する場合もあり、「卵を家に入れないほうが安全」ではあるのです。

しかし、将来を考えれば「皆で卵料理を食べる」風景が、家庭の中にふつうにあるのはとても大切なことです。安全性との両立は難しい問題ですが、子どもに「いつかは食べてみたい」という気持ちを失わせないことが大事だと思います。



「自分は大丈夫」という自信を育てる

長年、食物アレルギーを持つ子どもたちと接してきて、「治療のゴールとは?」と考えることがあります。
「これでアレルギー卒業。もう自由にしていいよ」と言われても、なかなか発作への不安はぬぐえず、その食品を好きにもなれないため、結局は食べない生活に戻る子もたくさんいます。それでも「いつか機会があれば食べてみようかな」と、本人が思えるようになれば、それでよいです。また、「多少の症状が出ても大丈夫、自分でなんとかできる」という自信を持てるようになることが、最も大切なゴールかもしれません。

食物アレルギーは命の危険を伴う病気であり、子どもの安全は守らなければなりません。しかし、症状が出るたびに「注意が足りなかったのでは」と自分を責めてしまい、心が疲れている保護者のかたも多いと感じます。また、「絶対に事故を起こしてはいけない」とリスク排除のみを強調していると、子どものおおらかさやたくましさが育ちにくい、という一面もあるのではないでしょうか。
症状への対処は十分に考慮しつつ、できる限りのびのびと行動させてあげられたら。そんな環境の中でこそ、「自分は大丈夫」という自信が育つのではないかと思います。

注:「食物アレルギー攻略法」の解説書は、NPO法人アレルギー支援ネットワークから販売されています。自己判断で使用せず、必ず主治医の先生の指導を受けながら活用してください。


プロフィール


伊藤浩明

あいち小児保健医療総合センター副センター長 兼 総合診療科部長。NPO法人アレルギー支援ネットワーク副理事長を務め、給食の対応手引書、緊急時対応マニュアルなどの作成に積極的に関わる。
NPO法人アレルギー支援ネットワーク(http://www.alle-net.com/)

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