いじめ、日本に多い「傍観者」タイプ

現在の保護者にとって、学校における「いじめ」は最大の関心事の一つでしょう。日本以外の諸外国でも、いじめは大きな社会問題となっています。日本と諸外国のいじめ対策には、何か違いがあるのでしょうか。全国都道府県教育長協議会は、イギリスなどのいじめ問題への対応を調べた報告書(外部のPDFにリンク)をまとめました。その中で、いじめ防止対策のキーワードとして浮かび上がってくるのが「シティズンシップ(市民性)教育」です。

報告書は、イギリス・ノルウェー・オーストラリアの3か国のいじめ防止の取り組みを調査しています。まず、各種の国際比較調査などの内容をもとに、日本とほかの国のいじめの違いについて、諸外国ではいじめが起こった時に間に入る「仲裁者」となる子どもが多いこと、逆に日本の場合は、いじめを見て見ぬふりをする「傍観者」となる子どもが多いことを特徴として挙げています。さらに、いじめ問題への対応姿勢として、日本では被害者救済という視点が主流なのに対して、ほかの国ではいじめをした加害者を繰り返し指導するという対応が中心となっていると説明しています。この姿勢の違いが、日本の学校のいじめ対策がいじめ発生後の対応に重点が置かれがちなのに対して、ほかの国では、早い段階から加害者になりそうな子どもを指導していくいじめ防止が中心になっているという違いにつながっているようです。

いじめの加害者となる子どもを指導する根拠となっているのが、イギリスなどで必修教科となっている「シティズンシップ教育」です。民主主義の社会を支えるためには、暴力などで他者の権利や安全を阻害することがあってはなりません。つまり、いじめは、社会を支える市民として許されない行為であるというわけです。報告書は、子ども同士でトラブルを解決するノルウェーの「学校仲裁所制度」やイギリスのピア・サポート制度などのほか、いじめ防止のために行政や学校と連携する全国的な民間団体や第三者機関が大きな役割を果たしていることなどを紹介しています。
さらに報告書は、日本と諸外国のいじめ対策を比較した結果、いじめ防止対策の成果を検証して改善するという取り組みが日本では弱いこと、子ども同士でいじめを解決する自治的活動の導入を検討する必要性があること、学校だけでは対応が困難な問題を解決するために外部組織を活用することなどの課題を指摘したうえで、「子供たちの市民性を育成すること、社会において互いの違いを認め、対立を調整し解決する力を育成していくことが重要である」とシティズンシップ教育の充実を求めています。

もちろん、歴史も文化も違う諸外国の方策が、日本でそのまま通用するものではないでしょう。また、日本の取り組みが外国より遅れているとも言い切れません。しかし、いじめ対策を、いじめ発生後の対応からいじめ防止へと転換していくためにも、道徳教育の充実などと同時に、シティズンシップ教育の取り組みが求められていると言えそうです。


プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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