いじめ防止、学校の具体策は 文科省が事例集を作成-斎藤剛史-

いじめは、学校に子どもを通わせている保護者にとって最も心配な課題の一つです。政府は「いじめ防止対策推進法」を制定して、いじめ防止を各学校に義務付けましたが、法律だけでいじめがなくなるほど簡単な問題ではありません。そのようななかで文部科学省は、「いじめの問題に対する取組事例集」を作成しました。いじめ防止について「より実効性の高い取組」を集めたというものですが、その中身はどのようなものでしょうか。

同事例集は、法律が制定されたことを受けて、いじめ防止に効果があったとされるものを全国から募集して集めたもので、「生徒主体の取組」「子供サミット」「特徴的なプログラム」「校内体制の整備」の4分野に分けて、各学校の参考となるような計31校を紹介しています。「生徒主体の取組」を見ると、たとえば群馬県渋川市立渋川中学校では、学校生活の様子や悩みに関するアンケート調査を毎月実施しているほか、生徒全員に生活記録ノートを毎日書かせて担任がチェックしたり、スクールカウンセラーが生徒全員と面接したりするなどの取り組みをしています。また、生徒会が主体となっていじめ防止フォーラムに参加したり、いじめ防止の啓発ビデオなどを作成したりしました。
岐阜県各務原市立尾崎小学校では、子ども同士のコミュニケーションを円滑にするため、他人の気持ちを考えた言葉遣いを「ふわふわ言葉」、他人を傷つけるような言葉遣いを「チクチク言葉」と名付け、友達から言われてうれしかった「ふわふわ言葉」を掲示する一方、これまでの反省からもう使わないと心に決めた「チクチク言葉」を「決意の封筒」に入れて封をするというような取り組みをしています。
兵庫県立姫路飾西高校では、生徒会が中心となってスマートフォンをめぐるトラブルなどの実態調査をしたうえで、生徒自身がスマートフォン使用のガイドラインを作成する取り組みをしています。

ただ、一般の人々や保護者などから見ると、多くが地味な取り組みばかりで、果たして本当に効果があるのか疑問を感じる人も少なくないでしょう。けれども現在のいじめは、一部のケースを除けば、特定の加害者や被害者がいるということは少なく、加害者と被害者の立場が簡単に入れ替わるのが特徴です。加えて、いじめを傍観する子どもたちが多ければ、いじめはさらにはびこります。誰もが被害者になり加害者になる可能性があるのです。このようななかでいじめ防止の取り組みの特効薬はなく、実は地道な小さな努力の積み重ねこそ効果があるのかもしれません。

また、いじめ防止で学校に要望を出したり話し合ったりする場合、いじめ防止のために実際にどんな取り組み方法があるのか知らないため、「ともかく対策を」というだけで学校との意思疎通や連携がうまくいかない場合もあると思います。実際に学校で行われている効果的な取り組み事例を知ることは、一般の人々や保護者などにとっても役立つのはないでしょうか。


プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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