うちの子、反抗期がないんです【前編】

誰もが経験する「反抗期」のはず……でしたが、近年、「うちの子、反抗期がないんです」といった声が聞かれるようになりました。そこで、高校教師の経験があり、現在もスクールカウンセラーとして活動されている、奈良女子大学教授の伊藤美奈子先生に、思春期の親子関係を中心にお話を伺いました。



うちの子、反抗期がないんです【前編】


反抗期は自立のための儀式?

大人へと心身ともに成長する思春期に訪れることが多い「反抗期」。今では保護者となった皆さんも、ある時期に反抗期を迎え、大人や社会などにいらだちを覚えたことがあるのではないでしょうか。そして、保護者のかたを困らせたり、本気で歯向かったりしたこともあるかもしれません。そして、子どももそうですが、保護者にとっても辛い時期です。
そんな反抗期を、「うちの子もいつか迎えるだろう」と覚悟していたものの、思春期になってもその兆候がない。むしろ、今も保護者の言うことはよく聞くし、本人もよく自分のことを話す……。これはこれで悪くはないけれど、うちの子はこのままで大丈夫?と、心配される保護者が見受けられます。

反抗期を、親離れ・子離れをするための「儀式」だとすると、この「儀式がない」親子関係は、「自立が遅れている」「親子関係が未熟なまま」の状態だと言えます。しかし、反抗期を、親子関係の「結び直し」作業の時期だと考えると、反抗期がなくても特に問題がないパターンがあることがわかります。



思春期に、親子関係の「結び直し」が行われる

それでは、親子関係の「結び直し」とはどういうことでしょう?
子どもが小さい時期の親子関係は、「保護者が育てる・守る/子どもは育てられる・守られる」という、保護者が上で子どもが下の「タテ」の関係が成立しています。しかし、子どもが肉体的・精神的に成熟するにつれて、この関係性は次第に「お互いが自立し、同等である」という「ヨコ」の関係に結び直されていきます。
ただし、思春期の子どもは、体は大きくなっても、社会的にも経済的にもまだ自立できておらず、中途半端なまま。保護者は相変わらず上にいて、完全にヨコの関係にはなれません。そこで子どもは、暴言や無視などをとおして、なんとか「親を引きずり下ろしてやろう!」と画策するのです。これが、いわゆる反抗期です。やっかいなのは、子ども自身が保護者を引きずり下ろそうと明確には自覚しておらず、ただ「親がムカつく」とか「自分のことをわかってくれない」と、モヤモヤイライラしてしまうところです。
さて、反抗期が始まると、保護者の多くはときどき衝突や悲観を重ねながらも、子どもの気持ちに歩み寄る努力をします。子どもも、どこかの時期で「親も一人の人間なんだ」と気付き、引きずり下ろすことに大した意味を見出さなくなる体験をします。こうして、親子関係が「タテからヨコ」に、ある程度結び直されたところで反抗期は終わりを迎えます。



反抗期がなくても心配がないパターンとは?

こうした、タテからヨコへの「親子関係の結び直し作業の時期」が反抗期だとすると、本題の「反抗期がなくても心配がない」のは、どのようなパターンでしょう。
比較的よくあるのは、子どもが小さいころから、保護者と子どもが「対等な人間」として付き合ってきたパターンです。このような場合は、思春期に入る前に親子関係が既に「ヨコ」になっているため、子どもに側に反抗する理由がありません。ただし、日本でこれがきちんとできている親子は、それほど多くないと思います。
むしろ代表的なのが、上のきょうだいの反抗期と保護者の困惑した姿を見るうちに、「自分は親を悲しませたくない。反抗はせず、親とよい関係を築こう」と、子どものほうから「ヨコ」の関係をつくるパターンです。ほかにも、ある学生の例として、「親が病弱なので、早く大きくなって親を守ってあげたい」と思っていたため、そもそも「タテ」の親子関係がさほど強くなく、早いうちに「ヨコ」に移行していたというパターンもありました。

反抗期がなくても心配がないパターンの多くは、思春期以前の段階で、親子関係がタテからヨコに結び直され、子どもが保護者の位置にまで、既にある程度「上がっている(成長している)」ことがポイントといえるでしょう。

それでは反抗期がないことが心配なパターンとは、どのようなものでしょうか? 
伊藤先生に、引き続き後編で伺います。


プロフィール


伊藤美奈子

奈良女子大学生活環境学部教授・臨床心理相談センター長。臨床心理士。主な著書に、『不登校 その心もようと支援の実際』(金子書房)、『スクールカウンセラーの仕事』(岩波書店)、『個人志向性・社会志向性から見た人格形成に関する一研究』(北大路書房)など。

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