小学校での学びの土台を作る 子どもの生活習慣【実践編】

生活習慣を身に付けさせることが大切だとはわかっていても、日々の生活が忙しく、苦労している保護者のかたも多いはずです。そこで、前回に引き続き、幼児期の家庭教育が子どもの発達に与える影響について研究されている目白大学専任講師の荒牧美佐子先生に、お子さまに生活習慣を身に付けさせるためのヒントを教えてもらいました。



小学校での学びの土台を作る 子どもの生活習慣【実践編】


楽しく生活を送るためにサポートを

お子さまに生活習慣を身に付けさせようとすると「片付けをしなさい」「夜9時には寝なさい」などの指示がどうしても多くなってしまうと思います。しかし、指示を与えるということは、お子さまに成果を求めてしまうことでもあります。お子さまができないことが続くと、親子共に、疲れてしまいます。
そこで、私がおすすめするのは、「お子さまのよいところ探し」です。お子さまのよいところを保護者がほめることで、お子さまの自信につながり、ほかのこともがんばってみようという意欲につながります。

また、お子さまの苦手なことも発想の転換をしてみましょう。たとえば、食べものの好き嫌いが多いお子さまであれば、「嫌いな野菜をどうやって食べさせるか」とネガティブに考えるのではなく、「どうしたら楽しく食事ができるか」とポジティブに考えてみてください。そして、昨日と比べて具体的に何ができるようになったかほめてあげるとよいでしょう。「おにぎりは全部食べられた」「少しニンジンを食べられた」など、どんな小さなことでも構いません。保護者が自分のことを認めてくれたということがうれしくて、「苦手な野菜も食べてみよう」といった次への意欲につながります。

保護者にとってみれば、お子さまが何かできるようになればうれしいし、逆にできていたはずのことができなくなればイライラしたりするかもしれません。ですが、よいところもそうでないところもひっくるめて、お子さまの日々の小さな変化に気付くこと、そのこと自体に「発見の喜び」を感じてもらえればと思います。



生活習慣を身に付けさせるためのアイデア
・トイレ……機嫌よくトイレに行けたらほめる、トイレの予告ができたら、たとえトイレに行く前におもらししてもほめるなど、少しでも成長を感じたらお子さまをほめてあげましょう。

・あいさつ……お子さまのタイプにもよるので、無理にお子さまに言わせても逆効果なことがあります。保護者が気持ちよくあいさつをする姿を見せれば、いつか必ずお子さまもあいさつができるようになります。

・片付け……おもちゃ別に片付ける箱を用意するなど、片付けしやすいような動線を作ってあげましょう。また、「片付けると次に積み木を探さなくてよいね」など、片付けをするとどんな良いことがあるか、伝えてあげるとよいでしょう。


できないことがあっても焦る必要はない

幼児期になると周囲のお子さまと我が子を比べて、保護者のほうが焦ってしまうこともあるかもしれません。お子さまのできていないことが気になるのは、お子さまのことをよく見ている証拠です。できないことでお子さまが生活に困っていたり、ほかのお子さまに迷惑をかけたりすることでなければ、過度に気にする必要はありません。
できていないことばかりに保護者の意識が向きすぎると、保護者の不安が子どもに伝わり、ますますしつけがうまくいかないということがよくあります。もし、しつけに不安や心配を感じているのであれば、その原因がどこにあるのか、ひと呼吸置いて考えてみましょう。不安の原因がわかると、気持ちが落ち着きます。多くの場合、周りとの比較による焦りや保護者自身の見栄であることが多いです。

ただ、「いつかできるようになる」「幼稚園や保育園にまかせればよい」と家庭でのしつけを完全に放任してしまうのはよくありません。幼稚園や保育園では、小学校入学を見据えた保育を実践していますが、家庭と連携して初めてうまくいきます。もし、しつけに困ったら、園の先生に相談してみるとよいでしょう。ベテランの保育者は、生活習慣を上手に身に付けさせるためのコツを知っています。ぜひ、気軽に相談してほしいと思います。
逆に、家庭では特に心配はしていないけれど、園から「家庭でももっと○○してほしい」とアドバイスを受けることもあるかもしれません。自分の子育てを責められていると思わずに、お子さんとの生活を見直すきっかけにしてほしいですね。



気負わず、できる範囲で子育てを

小学校入学を控えると、「学校生活に順応するには何か特別な教育を」と考えるかたもいるかもしれませんが、幼児期には、保護者が先まわりして何かを与えるというのは必要ではないと考えています。むしろ、お子さまの楽しいことを広げたり深めたりできるよう、そっとサポートすることが大切です。
特に、現在は書籍やインターネットなど、育児情報がたくさんありすぎて、保護者が迷ってしまうこともあると思います。すべてをうのみにするのではなく、自分でできる範囲のことを実践していきましょう。保護者がしつけを負担に感じすぎず、お子さまと楽しく生活することがなによりも大切です。必要な育児情報のすべては、目の前のお子さまの中にたくさんの喜びとともにつまっています。


プロフィール


荒牧美佐子

専門分野は発達心理学。乳幼児をもつ母親の育児感情、園における子育て支援の効果検証、幼児期の家庭教育が子どもの発達に与える影響などについて研究を行う。主な著書に『発達科学ハンドブック 第6巻発達と支援』(新曜社、共著)。

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