どう防ぐ? 子どもの食中毒【前編】

夏場は、食中毒のニュースが気になる季節。外食だけでなく家庭でも食中毒は起きていますが、症状が軽かったり、家族全員に発症しなかったりするため、食中毒と認識されない場合も多いようです。
食中毒の原因や注意すべきポイントについて、順天堂大学小児科教授で消化器がご専門の清水俊明先生に伺いました。




食中毒は一年中起きている!

食中毒の主な原因は、細菌とウイルス。目に見えないけれど、いたるところに存在します。細菌は温度や湿度などの条件がそろうと食べ物の中で増殖し、食べ物や手指などを通じて体内に入り、中毒を引き起こします。ウイルスは自ら増殖することはできませんが、食べ物を通じて体内に入ると、腸内の細胞に寄生して増殖し、食中毒の原因となります。
細菌が原因となる食中毒は、梅雨時から夏にかけてよく発生します。これは、多くの細菌が湿気を好み、20度程度で活発に活動を始め、人間や動物の体温に近い37度前後で最も増殖のスピードが速くなるためです。一方、ノロウイルスやロタウイルスによる食中毒は秋から冬にかけてよく起こります。
このように、食中毒は夏場のものだけとは限りません。特に子どもは、食中毒を発症しやすく、重症化しやすい傾向があるので、注意が必要です。



子どもが食中毒になりやすいのはなぜ?

食べ物の入り口と出口である消化器官には、強力な免疫システムが備わっています。胃では胃酸が、強力な殺菌力で侵入してきた病原体を殺してくれます。小腸・大腸には全身の免疫細胞の70%が集中しており、腸内に住みついた無数の細菌(腸内細菌叢<さいきんそう>)のうち、ビフィズス菌や乳酸菌などの「善玉菌」は、免疫細胞の働きを支え、侵入してきた病原体を抑え込んでくれます。
ところが、子どもの胃液は殺菌力が弱く、腸の免疫システムも未発達です。大人と同じものを食べて、子どもだけが食中毒を発症するケースが多いのはこのためです。腸内細菌叢が育ってくるのが1~2歳ごろ、消化吸収する力が大人と同等になるのは10歳ごろといわれています。1歳未満の子どもに、ボツリヌス菌中毒を起こす危険性のある蜂蜜を食べさせてはいけないのも、腸内細菌叢の発達が不十分なため。また、2歳未満の幼児にはお刺身などの生ものは食べさせず、その後も新鮮なものを吟味して与えることが大切です。また、免疫機能は体調やストレスによって変化します。夏場は細菌が増殖しやすいうえ、暑さ疲れで免疫機能が弱っているため、食中毒が起きやすい時期といえます。



食中毒の原因となる主な細菌・ウイルス

◆腸管出血性大腸菌(O157・O111など)
牛や豚などの腸内の常在菌で、O157やO111などがよく知られています。生や、加熱の不十分な肉から感染します。健康な大人であれば、発症しないか軽い下痢で済むことも多く、焼肉屋さんでお肉を食べた場合、10回に1回は軽い感染症を起こしているというデータがあるほど、身近な細菌です。感染すると出血性の大腸炎を引き起こし、溶血性尿毒症症候群などの合併症を起こすケースがあります。2011(平成23)年に起きたユッケ中毒事件はO157・O111、12(同24)年の浅漬け中毒事件はO157による中毒で、ともに子どもを含む死者を出しています。

◆カンピロバクター
家畜やペットなど、さまざまな動物の腸内にいる細菌で、特に鳥類の保菌率が高く、最近は鳥刺しなど、生の鶏肉による食中毒が報告されています。吐き気や腹痛、下痢、血便が主な症状で、初期症状として発熱や頭痛、筋肉痛などが見られることがあります。

◆サルモネラ菌
家畜やペットなど、さまざまな動物の腸内にいる細菌で、牛・豚・鶏などの肉や卵による食中毒がよく報告されます。夏場は、卵の中でサルモネラ菌が増殖してしまう危険性があるため、卵は必ず冷蔵庫に入れることが必要です。感染すると、激しい吐き気や腹痛、下痢、血便などの症状が見られます。

◆ノロウイルス
感染した人の手や唾液(だえき)、吐物や大便を介して感染するケースが多く、腸の中で増殖して嘔吐(おうと)や腹痛、下痢を引き起こします。また、ウイルスがカキなどの二枚貝に取り込まれて蓄積し、これを十分加熱しないで食べて感染するケースも多く見られます。冬場に流行のピークを迎えます。

このほか、人の手の傷口から感染しやすいブドウ球菌、神経性の毒素を出すボツリヌス菌など自然界にはさまざまな病原体が存在します。

小児科医として治療にあたっていますと、保護者の方々の知識は豊富で、衛生に気を使っていらっしゃるかたが多いと感じます。しかし、一見きれいなキッチンにも細菌が繁殖していたり、生肉から垂れた水滴から生野菜が汚染されていたりなど、見過ごしてしまいがちなポイントもあります。細菌やウイルスは「どこにでもいる」と認識したうえで、増殖をどこかで断ち切る工夫が必要です。

次回は、食中毒を防ぐための三原則や、食品の調理や保存、外食時などに注意すべきポイントについて伺います。


プロフィール


清水俊明

順天堂大学小児科教授。専門領域は小児栄養・消化器、新生児栄養、脂質栄養。新聞やラジオなどメディアへの登場も多い。

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