どう防ぐ? 子どもの食中毒【後編】

前回に引き続き、子どもの食中毒を防ぐための具体的なポイントを、順天堂大学小児科教授で消化器がご専門の清水俊明先生に伺いました。



食中毒予防の三原則は「付けない」「増やさない」「やっつける」!

1)付けない
<洗う!>

手にはさまざまな菌が付着しています。調理や食事の前はもちろん、生ものを扱う前後、調理中にペットを触ったりトイレに行ったりしたあとも、必ず手を洗いましょう。手に傷がある場合はゴム手袋などで覆い、傷口が食品に触れないようにします。
生ものを切ったまな板や包丁はすぐ洗い、熱湯か台所用殺菌剤で消毒すると安心です。細菌は高温・多湿と栄養分を好むので、生乾きのタオルやスポンジなどにも増殖しやすいもの。調理器具はこまめな消毒と乾燥を心がけてください。

<分ける!>
生の肉や魚、卵には「細菌がいて普通」と考えて、手やほかの食材に菌を付着させないようにしましょう。そのために、次のような注意が必要です。


・買い物の際、生ものの汁が出ないようにしっかり包む
・焼肉などの場合、生の肉をつかむ箸と焼けた具をつかむ箸は別々に
・野菜類も流水でよく洗う
・生野菜は特に、生ものの汁がかからないように離しておく


2)増やさない
<低温で保存!>

細菌の多くは10度以下で増殖がゆっくりになり、マイナス15度以下で増殖が停止します。菌を増やさないため、特に生ものやお総菜などは、できるだけ早く冷蔵庫に入れましょう。夏場は、卵も必ず冷蔵庫へ。卵の中にサルモネラ菌がいても数個なら問題ないのですが、夏の室温で放置しておくと、白身や黄身が培養液の役割を果たしてしまい、菌はあっという間に増殖します。また、冷蔵庫内でも増殖はゆっくり進むので、過信しないこと。冷却の効率が落ちないよう、冷蔵庫の詰め方は7割までを目安にしてください。

3)やっつける
<加熱!>

ほとんどの細菌やウイルスは加熱によって死滅するので、肉や魚はもちろん、野菜も加熱して食べれば安全です。「具の中心部が75度で1分以上加熱」が目安。作り置きの料理を温め直す場合も、具の中心まで熱くなるよう、沸騰させた状態で2~3分加熱しましょう。加熱すると細菌はいなくなりますが、室温で放置するとまた増えてきます。作り置きの料理は冷めたらすぐ冷蔵庫にしまい、早く食べきってください。

ちなみに、冷凍は殺菌にはなりません。凍らせても細菌は生きていて、室温に戻すとまた増殖を始めてしまいますので、不用意に冷凍・解凍を繰り返さないことも大切です。



子どものお弁当や外食で注意したいこと

お弁当の場合、特に肉や魚、卵はしっかり中まで火を通すこと。卵焼きやゆで卵も、半熟状態だとサルモネラ菌が死滅していない可能性があります。食材は粗熱がとれてから詰め、生野菜などが蒸れないように注意してください。

外食する場合は、衛生状態のよい店を選ぶことはもちろんですが、食べ方にも注意してください。たとえば焼肉屋さんなどでは、生もの用と焼けた具用の箸は別になっているはずですが、大人が酔っぱらってごっちゃにしてしまうといったことは起こりえます。生ものと生野菜はそばに置かないなど、配慮を忘れずに。



食中毒かな?と思ったら

子どもの食中毒で心配なのは脱水です。嘔吐(おうと)や下痢、腹痛などの症状が出たら、まずは水分を補給して消化のよいものを食べさせ、安静にして様子を見ましょう。吐き気がひどい場合は、食べ物や吐物を誤って飲み込んで気管が詰まる恐れがありますので、固形物はやめ、水だけにします。下痢は体の防御反応ですから、下痢止めは飲ませないようにしてください。抗生剤は善玉菌まで叩いてしまい、腸内細菌叢(さいきんそう)を乱す恐れがあるので、病院から処方されない限りは与えないほうがよいでしょう。二次感染を防ぐため、吐物や大便のついた下着や衣服は別にしてよく洗い、トイレなどの消毒に気を配ってください。
血便が出ている場合は、細菌による腸の粘膜障害が強いことが考えられるので、すぐに小児科を受診してください。食中毒は溶血性尿毒症症候群をはじめ、重い合併症を起こす可能性がありますので、「そのうち治るだろう」と軽く見ないことが大切です。

ご家族に食中毒が疑われる場合は、手洗いを徹底するとともに、食器やタオルなどを共同で使わない、トイレやお風呂の消毒を行うなど、感染を広げない配慮が必要です。



細菌やウイルスに負けない体を

細菌やウイルスは、ゼロにすることはできません。神経質になるより、「細菌は、いるのが普通」と考え、「付けない・増やさない・やっつける」の三原則を頭に置いて、増殖をどこかで食い止めることが大切です。
また、前編で触れたとおり、消化器官には強力な免疫システムが備わっています。この免疫システムを支えている腸内細菌叢を整えておくことが、食中毒の予防として非常に大切です。

腸内環境を整えるために大切なのは、「早寝早起き朝ごはん」、そして朝食後の快便です。便秘やストレス、偏った食事や生活リズムの乱れは、腸内細菌叢のバランスを崩すことが知られています。当たり前のようですが、生活のリズムを整えることで腸内環境も整い、食中毒に負けない強い体がつくられるのです。


プロフィール


清水俊明

順天堂大学小児科教授。専門領域は小児栄養・消化器、新生児栄養、脂質栄養。新聞やラジオなどメディアへの登場も多い。

子育て・教育Q&A