子どもが歴史好きになるといいことだらけ!?加来先生、どうすれば歴史好きになりますか?
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子どもに歴史好きになってほしい、と思う保護者のかたは多いでしょう。加来耕三先生は、歴史家・作家としてご自身の著書・歴史番組などで「歴史を学ぶだけではなく、活用すること」の大切さを伝えていて、その話の面白さに定評があります。そんな先生に、子どもが歴史好きになる秘訣と歴史の活用法について、お話を伺いました。
———先生、子どもが歴史に興味を持つようになるには、どうすればよいのでしょうか?
最初のきっかけづくりは、やはりご家庭でしていただくのが有効だと思います。まずは保護者が少しでも歴史に興味を示して、疑問を持つことですね。たとえば、大河ドラマなどを子どもと一緒に見ているとしますよね。そんな時に、保護者自身がその大河ドラマの内容について疑問を口に出して言ってみてください。子ども自身がはじめから、疑問を持つことは難しいですからね。
———具体的には、どのような疑問を持てばよいのでしょうか?
最初は、子どもが思いつきやすい身近な疑問のほうがいいですね。たとえばドラマの中の日常生活のシーンを見ていたら、「この時代の人たちは、何を食べていたのかな?」とか、何気なくつぶやいてみてはどうでしょうか。それを聞いた子どもも、「たしかに、何を食べていたんだろう?」と一緒に疑問について考えることができますよね。
———それなら、自然にご家庭で歴史について疑問を持って、話すキッカケになりそうですね。
そうなんです。保護者自身が歴史について疑問を持つことで、子どもも疑問を持つようになりますよね。こんなふうに子どもを巻き込むことで、子どもが自然に歴史について疑問を持つようになります。これが歴史に興味を持つ「はじめの一歩」になると思います。
———もっと歴史好きになってもらうには、どのような方法がありますか?
次の段階として、「なぜ?」と抱いた疑問について、教科書や学習漫画などを読んで、子どもと一緒に調べてほしいですね。歴史を学ぶうえでは「なぜ?」という疑問を持つことが大切なことです。子どもが歴史に触れた時に持つ「なぜ?」という疑問を、うまく吸い上げて、子どもと一緒に向き合ってほしいですね。
歴史を学ぶうえで、もう一つ大切なことは、歴史上で「もしも」と仮定してみることです。私が監修しているポプラ社の歴史学習漫画の編集部には、小学生からたくさん手紙が届きます。そのなかに「もしも、関ヶ原の戦いで、石田三成が徳川家康に勝っていたら、歴史はどうなっていたの?」というような、「歴史上のもしも」について書いてあるお手紙もあります。歴史を学ぶときに「もしも、こうだったら、どうなっていたのだろう?」と考えることによって、物事を俯瞰(ふかん)してみる習慣が身に付き、先を見通す力が養えます。子どもが「もしも」について考えていたら、ぜひ、子どもたちの「もしも」を暖かく見守って、大切にしてあげてください。
———歴史の楽しさを子どもに伝えるにはどのような方法がありますか?
私なら「歴史上の人物の中から、キミに似ている人を探してみよう!」と子どもたちに問いかけてみます。歴史上の人物の中から、子ども自身に自分と似ている人を探してもらうわけです。歴史上には、本当にいろんなタイプの人がいます。だから、子どもたちが「この人のこんな所は、自分に似ているかも」と歴史上の人物の中に、自分と似ている人を発見できます。このように子ども自身に歴史の中に入り込んで、歴史を楽しんでもらうことが、とても大切です。
———歴史を家庭内でうまく活用する方法があれば教えてください。
たとえば、子どもがなかなか保護者の言うことを聴かない場面はよくあることだと思います。そんな時に、保護者が言いたいことを、歴史上の人物の言葉をうまく借りてきて、伝える方法もあります。そのほうが、子どもは素直に話を聴いてくれると思います。
———子どもに「なぜ歴史を勉強するの?」と聞かれたら、どのように答えますか?
「歴史を勉強すると、明日がわかるよ」と答えますね。歴史の勉強というのは、ただ用語や人物を暗記することではありません。過去の歴史を学ぶことで、そこから時をこえて役立つことを見つけ出して、それを未来に活用することこそが、歴史を勉強する意義なのです。だから歴史を勉強すると、明日がわかるわけです。
———具体的に歴史から学べることとしてはどんなことがありますか。
「チャンスをつかむ考え方や行動」が学べますね。このチャンスをつかむ考え方や行動をして歴史を動かした代表的な人物としては、鎌倉幕府の創設・安定に尽力した北条義時や、明治維新を推進した大久保利通などがいます。
———「チャンスをつかむ考え方や行動」とは具体的にはどのような考え方や行動ですか。
では、私たちの日常の場面で具体的に考えてみましょう。
朝のラッシュアワーを思い浮かべてみてください。
電車から電車へ乗り継ぐために、通路を急ぐ人がいます。どんなに急いでも、歩いた場合とそれほど目的地に到着するのはかわりません。大きな差ではないですから。
だから、多くの人は「二、三分、あくせくしてどうなるものか」と思います。けれども、二、三分早く移動することで、一本早い電車に乗れたら、どうでしょうか。さらにその電車から、快速急行にうまく乗り継ぎができたとしたらどうでしょう。このように、結果的には、二、三分早く移動した人と普通に歩いた人との間に、大きな差が生まれることになるかもしれないのです。
———今の時代で例えるなら、北条義時や大久保利通は、いつも二、三分早く移動することで一本早い電車に乗るように心がけていたのですね。
はい。北条義時は源頼朝とともに鎌倉幕府を創設します。ただ、その後、頼朝が急死してしまい、御家人同士の権力争いや承久の乱などがおこり、鎌倉幕府は危機を迎えます。それでも北条義時は目の前の危機を何とか解決しようと、全力をつくして一つひとつ乗りこえ、ついに鎌倉幕府を武家政権として安定させたのです。
一方、大久保利通は下級武士から出世し、江戸幕府を倒して近代国家を建設する過程で、何度も危機を迎えます。ただ、そのたびごとに近代国家の建設という大きな目標を見据えて、出世争いや政争、そして戊辰戦争・西南戦争など、目の前の難局に全力で対処して近代国家の基盤を整備していったのです。
北条義時や大久保利通は、このように目の前のことに執着して、そのなかから最も可能性の高いものを選び、その解決に全力を注いだのです。そうすることによって、次の展望が開け、飛躍のチャンスが生まれることを、二人は経験から学んでいたのです。
つまり歴史を動かした人物は、このように「チャンスをつかむ考え方や行動」を日頃から実行してきたからこそ、歴史上で大きな成功をしているのだと思います。
———北条義時や大久保利通からだけではなく、歴史からは、本当に多くのことを学べそうですね。
はい。皆さんも歴史を好きになって、歴史上の人物からたくさん学んでください。そして、学ぶだけではなく、学んだことを日々の生活や仕事や勉強に、ぜひ活用してみてください。
●コミック版 日本の歴史 (80) 鎌倉人物伝 北条義時(ポプラ社)
企画・原案/加来 耕三
原作/静霞 薫
漫画/中島 健志
●コミック版 日本の歴史 (61) 幕末・維新人物伝 大久保利通(ポプラ社)
その他/加来 耕三
原作/水谷 俊樹
漫画/早川 大介
株式会社プランディット 社会課 井坂
編集プロダクションの株式会社プランディットで、進研ゼミを中心に、小学校から高校向けの社会(地歴公民)の教材編集を担当。
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