東大が求めるのは中学生のうちから「自分で考える力」‐渡辺敦司‐

いま大学は、急速に変わろうとしています。とりわけトップクラスの大学は、グローバル化がますます進む世界に通用する人材を育てることを目指しています。現在の中学生が大学に進学するころには、大学の在り方は保護者の時代とはすっかり違ったものになっていることでしょう。そうした大学教育に対応するためには、今までとは異なる姿勢や勉強方法が求められそうです。2014(平成26)年3月8日に東京大学の本郷キャンパス福武ホールで開催された進研ゼミ難関私立中高一貫講座「将来につながる『学び』について考える 学習ガイダンス」で、東大の福田裕穂副学長(入試企画担当)が行った特別講演から、その一端をのぞいてみましょう。

東大は、大学の憲法ともいうべき「東京大学憲章」に、社会から託された自らの使命として「世界的視野をもった市民的エリート」の育成を掲げています。これを濱田純一総長は「タフな東大生」(外部のPDFにリンク)と言い換えています。福田副学長は「単なるエリートではなく、個人個人がタフになったうえで、組織をリードしていけるような人」だと説明しました。東大は2012(平成24)年に秋入学へ移行する方針を打ち出し、結局は春入学のまま4ターム(学期)制を採ることにしましたが、そこでは夏の「サマープログラム」で短期留学やさまざまな体験を積み、「タフ」さを育てることも眼目の一つです。
市民的エリートとは、(1)自国の歴史や文化に深い理解を示すとともに、(2)国際的な広い視野を持ち、(3)高度な専門知識を基盤に、(4)問題を発見し、解決する意欲と能力を備え、(5)市民としての公共的な責任を引き受けながら、(6)強靭(じん)な開拓者精神を発揮して、(7)自ら考え、行動できる人材(東京大学アドミッションポリシー=入学者受け入れ方針)……と説明されています。とりわけ福田副学長は、(4)の重要性を強調。「ややもすると受験勉強は問題を一番早く、正しく解くことが目的になりがちですが、それだけでは世界で戦えない時代が来ています。今どんな問題が起こっているのかを発見し、そのうえで、自分で解決する意欲と能力を持つことが大事です」と指摘しました。

しかも、そうした態度を育てるには大学の4年間では短すぎるため、「中高生のころから、そういう方向で学んでほしいというメッセージを、東大の改革は示しているのです」と説明しました。その典型的な例が、入学直後の1年間を休学して留学やボランティアなどの経験を積む「FLY(初年次長期自主活動)プログラム」であり、2016(平成28)年度からの推薦入試の導入です。とりわけ推薦入試は「自ら課題を発見し、創造的に解決できる人材を見出し育てる」ことを目指しています。
今の中学生が大学を出て就職活動をするころには、「国内でも優秀な外国の人と競争する時代」になっていることが確実です。そうした中では「成績の良い順に東大に入り、(卒業後は)職が得られる時代」は過去のものとなっていることでしょう。だからこそ福田副学長は「しっかり勉強してください」と呼び掛けました。「何になりたいか、何をしたいか考えてみよう。自分の興味のあることを極めよう。教科書に書いていないことにチャレンジしてみよう。たくさん失敗しよう。自分で問題を見出して、解決方法を考えて、実際に解いてみよう。いろいろな人とコミュニケーションをしよう。受験勉強のためでなく、自分の未来のために幅広く勉強しよう」……福田副学長のメッセージは、そのまま東大が求める受験生の姿なのです。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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