志茂田景樹先生(小説家、絵本作家)が語る「読み聞かせの力」【後編】
前回は志茂田景樹先生に読み聞かせ活動を始めたきっかけと、読み聞かせが子どもに与える影響について伺いました。今回は絵本が持つ力と、ご家庭でもできる読み聞かせのポイントについてお聞きします。
大人の感受性にも響く「読み聞かせの力」
読み聞かせというのは理屈ではなく、その絵本が持っているメッセージというものを、感動と共に自然に伝えられるものなんですね。勇気を出すべき時は出すことが必要だとか、思いやりだとか、いろんなことを絵本が伝えてくれます。子どもと感動を分かち合い、同じ世界に入っていくということが大事です。
読み聞かせが癒やしを与えてくれるのは子どもだけではなく、大人も同じです。絵本というのは大人自身のさびついた感受性も少し落としてくれるんです。大人もどんどんやったほうがよいでしょう。ちょっと心が疲れているなと感じた時は昔読んだ懐かしい絵本を、自分のために声に出して自分に読み聞かせると、疲れた心が癒やされますよ。保護者のかたでも、一人で家の中にいることはあるでしょうから、気分転換としてもぜひやってほしいです。実際にやると気持ちが切り替わってリフレッシュできますよ。
子どもと一緒に物語の世界で楽しむ
読み聞かせという言葉は、なんだか押し付けっぽくて実は僕はあまり好きじゃないんですよ。だから、ご家庭で読み聞かせをする時も、上から目線ではなく、親子で物語の世界に入っていく気持ちで楽しんでほしいです。たとえば、子どもが他のことに気をとられていても「お母さんが一生懸命やっているのになぜ聞いていないの!?」とならないでください。子どもというのは興味をひかれて楽しければ、自然にその世界に入って行きます。そういった上から目線の読み聞かせというのは、絵本が持っている本来のメッセージ、あるいは力というものを伝えられません。
もっとも、初めは上から目線になってしまうかもしれません。でも読み聞かせというのはやっぱり、継続がいちばん大切なんです。続けていくと、1年もたてば、その人にしかない味が出てきます。こうしなきゃいけない、発音やアクセントはこうじゃなきゃいけないとかの決まりはありません。なまりのある人は、そのなまりがあるままで、訥々(とつとつ)とした口調の人は、訥々とした感じで読んでいればいい。子どもの時からミュージカルとかになじんでいる人だったら、いろんな動物が出てくると、豚は豚らしくイノシシはイノシシらしく、ライオンはライオンらしい感じの声で自然にできることもあります。でも、訥々とした感じで読み聞かせをする人がそういう人のまねをしたって、聞く方は引いてしまいますからね。読み聞かせを続けていくうちに、あなたにしかできないスタイルができ上がってくると思うので、ぜひお子さんと一緒に楽しみながら続けてみてください。
絵本の対象年齢にこだわらなくてもOK
子どもたちは、大人が思うよりも理解力があるものです。2~3歳の子どもでも幼児向けの絵本ではなく、物語絵本のほうを好む子どもも多いです。大人が思うよりも子どもたちは物語性というものを理解しています。意味のわからない言葉が出てきても、流れの中で理解したり、絵を楽しんでいるのでまったく問題はありません。
なので、たとえば絵本の対象年齢なんかは、「うちの子は3歳だから5~6歳用の絵本は難しい」とか先入観は持たないで楽しんでください。逆に、幼児絵本でも小学生が好きなものもあったりします。『ぴょーん』(ポプラ社刊)なんて、1~2歳向けの幼児絵本ですが、小学生の男の子は大好きですよ。
「よい子に読み聞かせ隊」では、読み聞かせのすばらしさや高揚感を知ってもらうためにフルートなどの楽器を使ったり、スライドを用いたりしますが、これが読み聞かせというわけではありません。ご家庭で気軽に、保護者のかたが、我が子と一緒に楽しい世界へ行ってこよう、そこで楽しんでこようという思いで読み聞かせをしてほしいですね。
『キリンがくる日』 <ポプラ社/志茂田景樹(著)、木島誠悟(イラスト)/1,365円=税込み> |