志茂田景樹氏(直木賞作家)が被災地での読み聞かせをする思い
直木賞作家で、絵本作家でもある志茂田景樹氏。近年は「よい子に読み聞かせ隊」というグループを結成して全国で公演を行ったり、Twitterで悩み相談を行ったりなどの活動が注目されている。読み聞かせを始めるきっかけや、被災地での活動体験について話を伺った。
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絵本の読み聞かせを始めたきっかけは、1998年に福岡市の書店で開催されたサイン会でした。サイン会は大人向けでしたが、保護者に連れられた子どもたちを見ているうちに突き上がるような思いが生まれて、読み聞かせをすることにしました。
読み聞かせを始めると、それまで騒がしかった子どもがあっという間に静かになり、気が付いたら、大人も含めてみんな物語の世界に入っているのがわかりました。その時、40代くらいの女性の「とても嫌なことがあって落ち込んでいたけれど、聞いているうちに元気が出ました」という言葉がとても印象に残っています。絵本の読み聞かせというのは、年齢に関係なく、心が洗われるような効果があるんですね。
ある時、阪神淡路大震災で被災し、PTSDに悩まされている子どもが多くいるという、兵庫県西宮市の小学校から読み聞かせの依頼がありました。当時、僕が選んでやっていた物語は、アンデルセンの童話など、子どもが泣くようなかわいそうな場面が多く悩みました。それでも最終的には、先入観を持たず、いつもと同じように行いました。
読み聞かせが終わると、話を聞いている間、涙をこぼしていた子どもたちが、僕やスタッフの袖を引っ張ったりまとわりついてきたりしたので、これでよかったんだと思うことができました。この時、子どもたちの目線に立って、未来に向かって伸びていけるような読み聞かせを続けていこうと決意しました。絵本を通じて「命の尊さ」「生きることのすばらしさ」を伝えていこう、それを大きなテーマにしようと決めました。絵本の読み聞かせは微力ですが、子どもたちの癒やしになって、感受性を豊かに育む力になれればいいですね。