救済措置だけでは済まない? 高校の「未履修」問題

学習指導要領に定められた必修科目を生徒に履修させていない高校が全国で多数あることが判明したことを受けて文部科学省は2日、履修不足のある生徒への補習は70時間を上限とし、最低50時間まで軽減できるなどの救済措置を示した「必履修科目未履修の生徒の卒業認定等について」を各都道府県教委などに通知しました。これにより履修不足で卒業できなくなるという心配はなくなりました。文科省の調査後も次々と履修漏れのある高校が明らかになっており、大学受験だけしか考えない高校の責任とは言えなくなってきたようです。

全国で必修科目の履修漏れがあった高校は、文科省の調査結果(11月1日現在)によると、全国で公立高校は4,045校中314校(7.8%)、私立高校は1,346校中226校(16.8%)で、履修不足のある生徒は約8万4,000人に上っています。文科省の通知によると、履修不足の生徒の補習は70時間を原則として、2単位不足の生徒は50時間まで軽減できるとしています。また、3単位以上不足している生徒は、70時間の補習のうえにレポートなどの特例措置で単位を認めることになりました。

学習指導要領では、50分授業(1単位時間といいます)を35回実施すると1単位となっています。学校の年間週数は35週とされていますので、時間割表に週1回、1単位時間の授業が組まれていれば1単位という計算になります。また、全国的に見ると「3分の2の出席」で履修を認めると内規で定めている高校が多いことから、70時間の3分の2程度、しかも区切りのよい時間数ということで最低50時間の補習となったようです。2単位不足の生徒は、履修不足者全体の約73.3%を占めており、これでほとんどの生徒はあまり負担を負わずに卒業できると文科省は見ています。

しかし、文科省が調査に一端区切りをつけてからも都道府県やマスコミの独自調査で、履修不足がある高校が次々と見つかっています。これほどの数の高校が学習指導要領に違反しているという現実は、単に高校だけの責任として責められないことを意味しているのではないでしょうか。

学習指導要領違反の高校が出現する最も大きな原因は、義務教育とは異なる高校の多様性でしょう。生徒のほぼ全員が大学を目指す進学校もあれば、小・中学校の内容さえ十分でない生徒を抱える高校もあります。また、進学校といっても、難関校の受験を目指す高校、中堅私大の受験が中心の高校と、学校や生徒の実態はさまざまです。

高校の学習指導要領を大学受験に有利なように変えようという考え方は、もちろん間違っています。しかし、これだけ生徒の多様化が進み、学校ごとに求められる教育内容が違っている高校に対して、普通科と職業科の区別程度しかない高校学習指導要領で一律に対応しようというのには、限界もあります。安倍晋三首相は、教育再生会議でも学習指導要領を検討すると述べていますが、より弾力的な見直しが迫られることになるかもしれません。それぞれの高校でどんな教育を目指してほしいのか、保護者としても要望していく必要があるでしょう。

プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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