知っていますか、「自殺」のサインと予防 文科省が報告

「遠くに行ってしまいたい」「すっかり疲れてしまった」……。
これは、文部科学省の「児童生徒の自殺予防に向けた取組に関する検討会」が先頃第1次報告をまとめ、そこで示した自殺のサインの一例です。報告は学校現場向けに自殺への対応や予防についてまとめたものですが、家庭でも参考にできる内容となっています。「うちの子に限って」と思うかもしれませんが、未成年者の自殺は年間約600人に上り、背後には未遂者が少なく見積もっても10倍はいると推計されています。決して軽視できる数字ではありません。

報告は、自殺のサインを次のように示しています。
(1)突然の態度の変化(関心のあった事柄への興味を失う、引きこもりがちになる、成績が急に落ちる、学校に通わなくなる、不安やイライラが増す、自分より幼い子や動物を虐待する、身だしなみを気にしなくなる、不眠・食欲不振・体重減少……など) 
(2)自殺をほのめかす(「誰も自分のことを知らない所に行きたい」「眠ったらもう目が覚めなければいい」「死にたい」などの言葉。文章や絵の場合も) 
(3)別れの用意をする(大切なものを友人にあげてしまう、日記・手紙・写真を処分する、長く会っていなかった知人に突然会いに行く) 
(4)非常に危険な行為(あるときを境に事故やケガを繰り返す。本人も自覚していない潜在的な自殺願望の場合も) 
(5)自傷行為(リストカット、薬の服用)。
子どもには珍しくない「サイン」も含まれていて判断に迷いそうですが、逆にいえば、はっきりとわかるのなら周囲が「突然」と嘆くこともないはずで、注意深く子どもを見守るしかなさそうです。

では、自殺をほのめかされたり、「自殺したい」と打ち明けられたりしたら、どう対応すればよいのでしょう。
「命を粗末にしてはいけない」と言いたくなりそうですが、思い詰めた子どもには届かない言葉かもしれません。言い方によっては説教になってしまいます。
そんなときこそ、まず子どもの言葉に耳を傾け、「聞き役」に徹することだと報告は強調します。また、信頼関係があれば自殺について話すことは危険ではなく、むしろ感情を言葉で明らかにすることが有用だとしています。

一般に、直前の出来事が自殺の原因だと受け取られがちです。しかし、それは些細な出来事で、実際には複数の要因が長年にわたって積み重なった結果であることが圧倒的に多いのです。
年少の場合は突発的なケースもありますが、特に思春期以降は成人同様と指摘されています。
世界保健機関(WHO)の調査では、自殺者の9割以上がうつ病、統合失調症、摂食障害などの「こころの病」でした。ところが、専門機関の治療を受けた人はごく少数でした。効果的な治療法が存在し、適切な治療は自殺の予防となるにもかかわらず、です。

こころの病に対しては偏見が強く、弱音を戒める風潮も残っています。
そこで、「本当に困ったときに助けを求めるのは恥ずかしいことではない」と、普段から子どもに伝えておくことが必要です。これは自殺予防に限ったことではなく、いじめや不登校などへの対応とも共通する考え方ですから、どの家庭でも意識しておくべきではないでしょうか。
リストカットを何度も繰り返す子どもは、死ぬためではなく、救いを求めているのだといいます。
「自殺のサイン」は「救いを求めるサイン」でもあるのです。

自殺者数の年次比較(警察庁)

プロフィール



1966年神奈川県生まれ。中央大学卒。「教育新聞」記者として文部省をはじめ教育行政の取材を担当。1998年よりフリー。国際ジャーナリスト、カメラマンとしても活躍。共編著に「子ども虐待 教師のための手引き」(時事通信社)他。

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