これって虐待?と思ったら【後編】子どもの立場に立って考えよう

「イライラして、つい子どもを叱ってばかりいる」「やめようと思っているのに、子どもをたたいてしまった」……孤独な子育てをしていると、こんな風に追い詰められた気持ちになることはありませんか。子どもへの虐待を防ぐために保護者は何ができるか、前回に引き続き、子どもの虐待事情に詳しい、山梨県立大学教授の西澤哲先生にお話を伺いました。



虐待してしまう保護者の共通点

虐待してしまう保護者はモンスターのような存在ではないと思います。子どもが言うことをなかなか聞かないから、怒鳴ったりしてしまうことは誰にでもあると言えます。ただ、多くの保護者がそうした頻度が多くならないよう、手を上げることがないよう自分自身で制御していると思います。お休みの日は自分の好きなことをしたいけれど、子どもの好きな公園に行ったり、遊びに付き合ったりしてあげる保護者は多いでしょう。多くの保護者が自分の欲求よりも、子どもの欲求を優先してあげられるのは、自分自身の欲求が幼少期に満たされて育ってきたからと言えます。自分が子どもを持った時、今度は自分がそのニーズを満たす番になることができるのです。

自分の欲求を満たされていないまま保護者になった人たちは、大人になっても自分のニーズを満たすことに躍起になってしまうため、自分の欲求を邪魔する子どもの存在にいらだちを感じてしまうことがあるのです。その欲求不満から、力づくで、不適切な関わり、いわゆる虐待という行為をしてしまうのです。
特に重症な保護者ほど、自分自身が適切な養育を受けていないというケースが高いことが、私が行った過去の調査からもわかっています。ただ、こうした世代連鎖だけが虐待の原因ではなく、経済的に余裕がない、仕事と育児の両立が大変、といったいろいろなストレス要因が重なって、暴力や体罰をしてしまうこともあります。



子育てにおいて本当に大切なことを考えよう

上記に加えて、子育てに関する情報が氾濫(はんらん)していて、何が子育てにおいて大事かを見失ってしまっている保護者が多いのではないかなと思います。かつては、今のように受験や競争も激しくありませんでしたから、子育ても、健康に育てばよいというシンプルなものだったように思いますが、今はさまざまな子育て法や子育て観が発信されているため、どんな子育てを目指せばよいかわからなくなってしまうのです。
そのため、育児書に書いてあるとおり全部完璧にやろうとしゃかりきになってしまうことも多いようです。たとえば、1歳だけれどまだ言葉を話さない、3歳なのにおむつが外れない、年長だけどひらがなが書けない……といった細かいことばかりが気になってしまい、ほかと違うと、イライラしたり、不安になったり、疲れてはいないでしょうか。

また、食に関する問題から虐待をしてしまうケースがあります。特に幼児期には、子どもを健康に育てたいという愛情は非常によくわかるのですが、栄養をたくさん摂らせようと必要以上に躍起になってしまう保護者がよくいます。しかし、栄養バランスが多少くずれても、1日、1週間単位で見た時に必要カロリーが摂れればよいではありませんか。子どもの嫌いなピーマンやニンジンを、子どもをたたいたり、脅したりしてまで、必死になって食べさせなければいけないのか、よく考えてほしいですね。ピーマンだけにしかない特別な栄養もないですし、大人になったら自然と食べられるようになることが多いということを冷静に考えれば、かっとならずに済むと思うのです。食事の件はあくまで一例ですが、子育てにおいて何を大切にしたいかを考えてみてください。



子ども立場に立って自分の言動を振り返って

子どもを叱ってしまうのはしかたない時もあるでしょう。しかし、言われた子どもの立場に立ってご自身の言動を振り返ってほしいと思います。子どもたちが、保護者の行動や言葉をどう受け止めたかイメージしてください。「言い過ぎちゃったな」「ひどい言葉を言ってしまったな」と反省すると、次にかっと怒りそうになっても我慢できるようになってくるはずです。その際、子どもに悪かったと思えるのなら、すぐに謝りましょう。「ごめんね、怒鳴っちゃって」と。保護者が謝ってくれたと思えば、子どもはうれしいし、親子関係は修復していきます。

しかし、繰り返してしまう、気が付くとやってしまうのは、意識を越えて、自分の無意識のうちに虐待をしてしまっているからです。自分ではコントロールできない部分であることが多いので、専門家のサポートが必要だと考えられます。各市町村には、子ども虐待の問題に対応する窓口が設置されています。相談に行くことは、恥ずかしいことではありません。保護者として落第だと責められることもありません。お子さまのため、自分のためにも相談に行ってほしいと思います。

もし、周囲のかたや近所などで「虐待かな?」と思われる場面に出くわしたら、私はその保護者に声を掛けてほしいと思います。できればサポーティブに「大変ですね」と。子どもを怒鳴っている時は、保護者もきっと困っているのです。快感を覚えている人は決していません。けれど、それを自分ではセーブできないのです。育児の悩みを話せる相手がいれば、もしかしたら心が少し穏やかになるかもしれません。でも、あなたが受け止めきれなかったら、無理することなく、児童相談所などに連絡し、専門家の支援にゆだねましょう。
早期対応し、専門家の支援を受けることで、その子の負ってしまった傷を回復すること、そして虐待をしてしまった保護者の心もケアを受けることができるはずです。


プロフィール


西澤 哲

サンフランシスコ州立大学大学院教育学部カウンセリング学科修了。現在、山梨県立大学人間福祉学部教授。虐待などでトラウマを受けた子どもの心理臨床活動を行っている。著書に『子どものトラウマ』(講談社現代新書)、『子どもの虐待』(誠信書房)などがある。

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