「待つ」ことができる先生[こんな先生に教えてほしい]

私は全国のとびっきりの授業を伝える「わくわく授業—わたしの教え方—」(放送:日曜午後6時—NHK教育テレビ)の制作に携わっています。また、「NHKデジタル教材」という先生方に授業で使って頂くための番組やWebを作るなかで、たくさんの授業を見せて頂き、その授業作りについて先生方に話を聞く機会をもちました。そのなかで感じたことを書きたいと思います。

このテーマで書かせていただく4回目です。今回は、「『待つ』ことができる先生」です。

授業の多くは、まず、子どもたちが課題をつかみ、考えるようにすることから始まります。そして、「考える力」を育てるために、先生たちはさまざまなアプローチを試みます。知識の提供、考え方のモデル、興味ある題材など、先生たちはさまざまな準備をしたうえで、子どもたちが考え出すのを待つのです。この「待つ形」には、先生ごとの個性がよく表れます。

今回書かせていただくのは、宮城県のC先生についてです。C先生の授業をじっくりと見せていただいたのは6年前。小学5年生が「お米」をテーマにした学習をするにあたって、1年間撮影をさせてもらったときです。

授業は、まず、子どもたちにスーパーで買ってきた5キロ入りの白米を見せ、「これはどうやってできるの?」という問いから始まりました。米どころの宮城の子どもたちから返ってきた答えは、驚くべきものでした。「校舎の屋上(コンクリートです)に白米をそのまままけばいい」なんて言う子もいました。子どもたちは、ご飯を毎日食べているけれど、「お米」について、びっくりするほど知らないのです。

そこで先生は、子どもたちを「農家」「消費者」「政府」という立場に分けて、お米について調べさせることから始めました。「考える」ことに入るために必要な基礎知識をもたせるためです。さらに、調べたことを基に発表して話し合うことで、農薬の問題やお米の値段など、立場によって異なる意見があることを実感するためです。

これもC先生の「待つ形」の一つです。基本的な知識であれば、資料集に載っています。それを伝えて意見交換に移ることもできます。でも、「自分で調べた」「自分で疑問に思う」という経験がなければ、本当の課題にはならない。つまり、学びを楽しくする原動力を生み出すために、C先生は時間を確保するのです。「時間を確保する」なんて当たり前のように思いますが、小学校の授業1コマは45分です。それを有効に使おうとすると、課題をつかむために時間を確保するということは、けっこう勇気のいることなのです。

考える時間を確保し、課題をもてても、全員がすぐに考えるようにはなりません。それぞれ経験知が違うからです。一人ひとりの状況に合わせて支援をしていく必要があります。

C先生は課題について考えるとき、子どもたちが考えているかどうか見分ける方法を常に用意しています。話し合うか書かせるといった、作業が伴うような課題の設定にするのです。つまり、作業していなければ、考えていないことになります。

動きが止まっている子を見つけると、C先生は、個別指導に入ります。ここでも先生ならではの「待つ形」が発揮されます。課題は何か。何をしなければならないのか。その子が自ら気付くように、問いかけたり、友達の作業経過を見せたりして、考える材料になる資料を提示します。

子どもたちが自分で考えるようになるのは、課題に興味をもち、どうすれば答えを得られるかのぼんやりした見通しがつくときです。子どもたちの器のなかに、それが満ちるまで、C先生は腰をすえて待ちます。

さらに、子どもたちが自ら考えるようになるのは、答えを見つけ出すことが面白いという喜びや達成感を実感していることが欠かせません。C先生は、国語や算数などさまざまな教科のなかで、そんな体験を何度も繰り返し、忍耐強く積み重ねます。

こうして考えることが好きになった子どもたちは、その基礎体力を活かし、半年もたつとものすごいスピードで伸び始めます。 
私は撮影をとおして、その姿を目のあたりにしました。
1年後、カメラの前には、相手の目を見て、堂々と自分の考えを話す子どもたちがいました。

プロフィール


桑山裕明

NHK編成局編成センターBSプレミアムに所属。これまでに「Rの法則」、「テストの花道」、「エデュカチオ」、「わくわく授業」、「グレーテルのかまど」「社会のトビラ」(小5社会)、「知っトク地図帳」(小3・4社会)「できた できた できた」、「伝える極意」「ひょうたんからコトバ」などの制作に携わる。毎週のように学校を訪ね、たくさんの授業を見ている。

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