正解がない時代に親はどうする? おおたとしまささんに聞く、子どもたちに必要な3つの「生きる力」

「グローバルな時代だから子どもには英語を身に付けてほしい。プログラミングも……」

つい欲張りになってしまう現代の親たち。あれもこれもと詰め込み過ぎると、子どもはもちろん親も疲れてしまいます。

教育ジャーナリストのおおたとしまささんは、そんな親たちに向け『正解がない時代の親たちへ 名門校の先生たちからのアドバイス[エッセンシャル版]』(祥伝社)を発売。おおたさんは教育現場や保護者・子どもたちの声を聞くなかで、これからの時代を生きるために、特に必要な「3つの力」があると考えたそう。いったい、どんな力でしょうか。

「やり抜く力」「チームになる力」を子どもが身につけるには? おおたとしまささんに聞いてみた

親は不安を作り出している。 おおたとしまささんに聞く、「すごい親より、いい親でいる」ということ。

この記事のポイント

情報過多の時代での不安。問題は親のなかにある?

「すごく正直に言うと、朝起きられなかろうが、スマホばかりいじっていようが、元気ならいいんですよ。愛されていて、自由であれば、元気でいられます」(武蔵高等学校中学校・高野橋雅之先生)

『正解がない時代の親たちへ 名門校の先生たちからのアドバイス[エッセンシャル版]』より引用

──この言葉のように考えたいと思っても、細かいことが気になってしまう人が多いです。「子どもはスマホやゲームばかりしているけれど、学習内容も社会も変化しているので心配」という保護者の声もよく聞きます。

おおたとしまささん(以下おおた):本当に、情報過多で右往左往してしまっている親御さんが今とても多いですね。世の中全体で見てもそう感じます。

1つ不安なことがあって答えを探しても、またすぐに不安がわいてしまってキリがない。それなら、どんな状況になっても自分なりの答えを手に入れられる思考回路をもったほうがいい。『正解がない時代の親たちへ』にはそんなメッセージを込めています。

──紹介されている名門校の先生たちの言葉は、どんな親子にも染み入るような普遍的なものだと思いました。

おおた:何千人という親子を見てきたベテラン教師たちの言葉です。子どもを操作しようとするのではなく、子どもの人格を尊重したものですね。本書では珠玉の言葉を材料に、21世紀を生きる子どもの親たちに心得てほしいポイントを綴っています。

なかにはちょっと耳が痛いと思われるような部分もあるかもしれません。まず、親の成功体験が子どもの成功体験に直結しないことが大前提としてあります。

──そうですね。だからこそ「これからの世の中で子どもたちが生きていく力」を知りたいのですが。

おおた:実はそんな時代はほぼ存在しなかったんですね。親世代の成功事例が次世代にも有効だったことのほうが少ないわけで。「親世代の常識が通用しない時代だから親は不安」という相談をいただくことが多いんですが、そもそも前提がおかしいです。

子どもたちは自ら新しい社会をつくることができます。課題は、親のなかにあるんです。

ノウハウではなく、親の人生観を伝える

──なるほど。親世代は「自分たちとは時代が違うし、どうしよう」と焦っていますが、時代はいつも変化し続けていますね。親の価値観で「○○を身につけて将来活躍してほしい」と考えても、通用しない……。

おおた:「活躍」のイメージもさまざまですよね。グローバル企業に就職して高い収入を得ることがゴールとも限らないでしょうし。

──では、親が自分の過去の経験から伝えられることってないんでしょうか。

おおた:親の成功体験は子どもが生きるためのノウハウにはなりませんが、親自身が学び取った信念や指針を子どもに示すことには意味があると思います。参考にするにしても反面教師にするにしても、子ども自身の価値観を築くうえでの重要なヒントになります。損得勘定ではなく、親が自分の人生観を伝えることは大事ですね。

──伝え方に悩むかもしれません。人生観を自覚していないこともありますし。

おおた:面と向かって青臭いことも言いにくいですよね。難しいことではなくて「お父さんは昔こういうことがあったよ」「お母さんは困っている人にこんな風に声をかけてね、今でもいいお友達なんだ」とか、人生経験を積んでいるからこそ言えることが誰にでもあるのではないでしょうか。

そこから学び取ったことを伝えてあげると、子どもにとって大きな財産になります。

「やり抜く力」と「チーム力」がますます大事に

『正解がない時代の親たちへ 名門校の先生たちからのアドバイス[エッセンシャル版]』を参考に編集室で作図

──おおたさんは多くの教育現場を訪れたり親子に会ったりした経験から、子どもたちに必要な「生きる力」とはどんなものだと思いますか?

おおた:「①そこそこの知力と体力、②やり抜く力、③自分にはない能力をもつひととチームになる力」の3つにまとめられると考えています。いつの時代にも重要な力ですが、現代では比重が変わってきたと感じています。

──どういうことでしょうか。

おおた:②やり抜く力、③自分にはない能力をもつひととチームになる力の重要性が増しています。①の知力と体力は本当にそこそこでいいイメージ。

②はアンジェラ・ダックワース博士*が提唱する「GRIT(グリット)**」の訳語。ダックワース博士は人生にとってIQの高さよりもGRITが重要だと明らかにしています。③は集団で生きていくための力。自分と違うところをもつ相手とチームになる力は、正解がない時代においてますます必要になるでしょう。

*アメリカの心理学者
**非認知能力(テストなどで測りにくい能力)の一種

まとめ & 実践 TIPS

情報におぼれそうになり、焦ったりイライラしたりすることも多い日々。でも、親が子どもに人生の道筋を教えられないことは当たり前。子どもたちの「生きる力」のため、これまで生きて知ったことをどんなふうに伝えられるのか。ゆっくり考えてみませんか。

執筆/樋口かおる

『正解がない時代の親たちへ 名門校の先生たちからのアドバイス[エッセンシャル版]』(おおたとしまさ著、祥伝社刊)

プロフィール


おおたとしまさ

教育ジャーナリスト。1973年、東京生まれ。リクルートから独立後、数々の育児・教育誌の編集に携わる。学校や塾、保護者の現状に詳しく、各種メディアへの寄稿、コメント掲載、出演も多数。中高の教員免許を持ち、小学校教員や心理カウンセラーの経験もある。著書80冊以上。

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