子どもの「課題解決力」を育む対話とは[やる気を引き出すコーチング]
コーチ仲間のAさんには、中学2年生の娘さんがいます。バレーボール部で部長を務めているそうですが、先日、家庭でこんな悩みを口にしました。
「もっとみんなにやる気を持って練習してもらいたいのに、塾とかいろいろ忙しそうで、がんばってる子もいるけど、そうじゃない子もいて、最近いまいち雰囲気が良くないんだよね。先輩が引退して、私の代になって急にダラダラしてるって言われるのはイヤ。もう!部長なんか引き受けなければよかった…」
こんな時、このお子さんとどんなコミュニケーションをとりますか?
課題解決につながらない声かけ
「あなたが引き受けたんでしょ!今さらそんなこと、私に言われても困るよ。最後まで責任持ってやりなさいよ!」
「大丈夫!大丈夫!そんなに深刻にならなくても。そのうちなんとかなるって。あんまり気にしないほうがいいよ」
「それはあなたのせいじゃないよ。がんばっていないみんなが悪いんでしょ。それにそういうのは、顧問の先生がもっと注意すべきことじゃないの?あなた一人がそんなに悩まなくてもいいことだと思うよ」
などと言ってしまうのは、いずれも、あまり建設的なコミュニケーションとは言えません。安易に「がんばりなさい」と励ましたり、誰かのせいにしたりするだけでは、この子の問題は解決しませんし、課題解決力を高める絶好の機会を活かすことにはなりません。
ゴールを明確にする質問から
日頃からコーチングをしているAさんの対応はさすがです。
「そうか。そんな気持ちなんだね」と、お子さんの言葉をいったん受けとめたうえで、質問をしていきます。
「それで、あなたはどうしたいと思っているの?」
「え?やっぱり、みんなにもっと前向きに練習に参加してもらいたい。そういう部にしたいって思う」
「そう。みんなが前向きに練習しているってどんなイメージ?どんな状態になればいいの?」
「うーん、まず、みんなが時間通りに練習に来るってことかな。それから…」
質問をして話を聞いているうちに、お子さんの部活における目標がだんだん明確化されていきます。
「そう!私はこんな部を作りたいんだ!」と自分が目指すゴールが明確になると、それだけで少しやる気も湧いてくるものです。
現状の不平不満を延々と言っているだけでは、課題解決にはつながりません。まず、どこに向かいたいのかをはっきりさせる。そのための対話をします。
建設的な質問をする
Aさんの質問は、さらに建設的に進んでいきます。
「みんなが時間通りに来るようになるには、どうすればいいかな?」
「それが問題だよね。だって、人それぞれに事情があるわけだし、そこは、みんなが時間を守ってくれないとどうしようもないことだと思うけど…」
「うん、そうだよね。みんなが守ってくれるようになるために、あなたができることは何かないかなあ?」
「え?…そんなことわかんないよ」
「あなただったら、どんな時に、時間通りに行こう!っていう気持ちになるかな?」
「え~?遅刻するとめっちゃ厳しく叱られるとか…でも、そういうのはイヤだな。楽しくない。そういう部にはしたくない。何か楽しみがあればいいかな」
「うん、例えば、どんなこと?」
こうして対話を繰り返していくうちに、「一人ひとりのメンバーに自分から積極的に声をかけてみる」という解決策を自ら見出し、前向きになったそうです。
うまく課題解決できたら、お子さんにとって、この経験は「自分の課題を自分で解決できた!」という成功体験になります。「次も、こんなふうに考えていけばいいんだ!」と学習します。
目指すゴールに向かって、「どうすればできるのか?」、「今、自分ができることは何なのか?」を具体的に考えることは課題解決力を大いに高めます。
安易な励ましやアドバイスよりも、Aさんのように、建設的な質問によって対話を重ねることは非常に効果的だと感じます。
(筆者:石川尚子)