三つ子の魂百まで……心理学的にはどんな意味をもつ?【後編】
3歳時点の個性や興味は、突然生まれるわけではありません。では、人間としてのベースが形成されてくる3歳までの時期には、子どもにどう接し、どのような関係性を築くべきなのでしょうか。発達心理学の観点から、法政大学文学部心理学科の渡辺弥生教授に解説していただきました。
「3歳までに○○をしよう」というフレーズは、ほぼ根拠が薄い
育児関連の書籍や雑誌では、「3歳までに○○をしよう」といったフレーズをよく耳にします。その根拠として「三つ子の魂百まで」「3歳児神話」が用いられる場合がありますが、これらに発達心理学的な裏付けはないことを前編で説明しました。
発達心理学的には、どの年齢も大切です。3歳を特別視する視点はありません。それでも、人間的な土台が形成されつつある3歳が大切であることはまちがいありませんから、発達心理学の観点から、この時期までに大切にしたい育児のポイントをお話しします。
◎「応答性」を高めることを意識しよう
0~1歳の時期に特に意識したいのは、保護者の「応答性」です。赤ちゃんは泣くことが唯一といえるコミュニケーションの手段です。それに対し、空腹なのか、オムツが濡れたのか、暑いのか……などを感じとり、応答してあげることが大事です。どうして泣いているのか、その意味を敏感に感じとるように心がけましょう。生まれた直後から子どもとのコミュニケーションは始まっているのです。
赤ちゃんは、しっかりと応答してくれた人とおおよそ1年かけて愛着(心の絆)を形成していきます。生後6、7ヵ月になると人見知りをするようになるのは、応答してきてくれた人と見知らぬ人とを区別できるようになるからです。こうした信頼関係を築くことが成長のベースとなります。
2歳ごろになると自我が芽生え、外の世界に対して意欲的になり、徐々に保護者から離れて遊べるようになります。それまでに築かれた愛着関係が安全基地となっているからこそ、安心して離れることができるようになるのです。さらに3歳ごろには、多くの言葉を獲得し、簡単なルールも理解できるようになります。
◎先回りして教え込まないようにしよう!
乳幼児期は、先へ先へと教え込もうとしない養育態度も大切になります。「おもちゃを買ってあげたから遊びなさい」「公園に連れて来たから遊びなさい」などと、保護者が先回りし過ぎて、子どもに過度に期待してしまいます。ですが、子どもは常に保護者の思った通りに振る舞うわけではありません。すると、保護者はイライラし、子どもは悲しい気持ちになるといった悪循環になります。
ここでも、やはり応答性が大切になります。子どもの姿をしっかりと見つめて、「何をやりたがっているのか」「何を教えることが必要か」をよく考えて接しましょう。子どもの自発的な言動に対し、「よくできたね」と認めたり、「こうしたほうがよいかもしれない」と教えたり、逐一、判断する態度が大切になります。
◎わかりやすい言葉で何度も説明しよう
子どもに対して言葉で説明しても、なかなか行動が変わらずにイライラすることがあるかもしれません。しかし、何度もわかりやすく説明するやり方が、最終的には最も心に深く届きやすいことを意識しましょう。感情に任せて叱ったり、ましてやたたいたりすると、「なぜ、そうするべきか」を考えることなく、怖いから従うだけになります。そうなると、怖い人がそばにいなければ、禁止されたことを繰り返すかもしれません。
0歳からの積み上げが3歳の個性を形成する
3歳ごろに表れる個性は、当然のことながら、3歳になって突然できあがるわけではありません。0歳からの積み上げにより、子どもの性格や興味は形づくられていくものです。子どもは、日々成長しています。「~~だよ」しか言えなかったのに、いつしか「~~しちゃった」「~~かなあ?」と語尾が多彩になる様子と同じです。日々、そうした小さな成長に出合えることが、子育ての喜びといえるのではないでしょうか。