三つ子の魂百まで……心理学的にはどんな意味をもつ?【前編】

「三つ子の魂百まで」と言われますが、このことわざは心理学的には根拠があるのでしょうか? 発達心理学を専門とする法政大学文学部心理学科の渡辺弥生教授にお話をうかがいました。

「三つ子の魂百まで」はどう解釈するといい?

「三つ子の魂百まで」ということわざの意味をどう理解されているのでしょうか? 「3歳の時点の性格や気質が大人になっても続く」と考えているかたが多いのでは。そして、「3歳までにしっかりとしつけをしなければ」などと焦りを感じるかたもいるかもしれません。

しかし、実際の意味は少し異なるようです。確かに「三つ子」は3歳児という意味ですが、このことわざではそれが転じて幼子全般を指しています。すると、「幼いころの性格や気質は大人になっても続く」という解釈になり、「それならごく一般的な話だな」と考えるかたが多いのではないでしょうか。ですから、このことわざの意味を考える際は、ことさらに「3歳」を気にする必要はないと思います。

発達心理学の観点では3歳で区切る根拠はない

それでも、昔の人が「三つ子」としたのは、理由がないわけではないと想像します。発達心理学の観点では、人は生まれた瞬間から連続的に成長しており、特に3歳で区切る根拠はありません。しかし、3歳くらいになると、おしゃべりになったり、いたずらをしたり、かなり個性が現れてきます。そのため、一般の人が「だいぶ、しっかりとしてきたな」と感じるのは、おおよそ3歳ごろになるのでしょう。その際に見える個性は意外と大人になっても変わらないところがあるという意味で、「三つ子」としたのかもしれません。

発達心理学では「3歳児神話」という言葉をどうとらえるのか

同じく3歳がキーワードとなる言葉に「3歳児神話」があります。「子どもが3歳になるまでは母親が家にいて子育てに専念するべき」といった意味で語られることが多いのですが、先ほどのケースと同じく発達心理学的にいうと、3歳児がクローズアップされる根拠はありません。さらに「子どもが幼いうちは母親が家にいるべきか」という点については、さまざまな研究が行われてきましたが、「家にいるから良い or 悪い」と単純には語れないことが多くの研究からわかっています。

例えば、本当は働きたいのに家に入ることを求められ、嫌々、専業主婦をする母親がいるとします。育児と家事に追われる毎日に疲れ、子どもにイライラをぶつけてしまうとしたら、子どもによくない影響が及ぶのは想像に難くありません。逆にできるだけ子どもと一緒に過ごしたかったのに経済的な理由などで働かざるを得ない母親が家で不満を爆発させるとしたら、これまた子どもに悪影響が及ぶでしょう。要は、母親が常に家にいるかどうかが問題ではなく、母親も父親もどう子どもに接するか、その在り方こそが子育てに最も大切なことです。

物理的な親子の時間についてはバランスを考える必要はあります。仕事が楽しいからといって、一緒に過ごす時間が極端に短い場合などはよい影響があるとは思えません。逆に長い時間一緒に過ごしても、保護者がスマホなど別のことばかりを気にして子どもは泣きっ放しといった環境では悪影響が考えられます。保護者自身がいきいきとできるライフスタイルを選ぶとともに、子どもとの時間をいかに大切にするかという思いや態度が、子どもの健全な成長につながると考えてよいと思います。

後編では、3歳ごろまでの育児のポイントについて解説します。

プロフィール


渡辺弥生

法政大学文学部心理学科教授。教育学博士。発達心理学、発達臨床心理学、学校心理学が専門で、子どもの社会性や感情の発達などについて研究し、対人関係のトラブルなどを予防する実践を学校で実施。著書に『子どもの「10歳の壁」とは何か?—乗り越えるための発達心理学』(光文社)、『感情の正体—発達心理学で気持ちをマネジメントする』(筑摩書房)、『まんがでわかる発達心理学』(講談社)、『子どもに大切なことが伝わる親の言い方』(フォレスト出版)など多数。

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