テスト前なのに勉強を先送りしてしまうのはなぜ?心理学が裏付ける、科学的勉強法Q&A
「テスト直前になっても、なかなか勉強を始めない」「教材をためてしまって困る」「思考力はどうしたらつくの?」……小・中学生、高校生の保護者のかたから、よくこんな声を聞きます。
『漢字学習から算数、英語、プログラミングまで 進化する勉強法』の著者である日本女子大学の竹内龍人教授に、実験心理学の立場からアドバイスをいただきました。
Q:勉強になかなか手がつかないときは?
A:まずは手や声を使った簡単な作業に集中!
ただ教科書を読んで暗記するより、テスト形式の復習をしたほうが記憶に残る「テスト効果」が、科学的に実証されています。テストという一度覚えたことを思い出そうとする作業によって、脳内に蓄えられた記憶が出てきやすくなるためと考えられています。
ところが、この「思い出そうとする作業」は脳に負荷がかかります。問題演習になかなか取りかかれない子は「疲れるからいやだ」「ハードルが高すぎる」と直感でわかっているのかもしれません。
こんなときは、漢字や英単語を書いたり、声に出して読んで覚えるといったやさしい作業に集中したりすることから始めてみましょう。手や声を使うことは、記憶の定着に役立ちます。
ただし、同じ作業ばかりに長時間集中していると、知識が頭に入らなくなってきます。人間の脳は、AIなどと違って「切り替え」が必要なのです。簡単な作業にある程度集中できたら、テスト効果を取り入れた実戦的な学習に切り替えるとよいですね。
Q:テスト直前なのになぜ勉強を先送り?
A:「セルフハンディキャッピング」という心の作用に注目
大人でも、急ぎの用事があるにも関わらず、急に掃除を始めたりSNSに夢中になったりと、別のことを始めてしまうことがありますね。人はなぜ、やるべきことを「先送り」してしまうのでしょうか?
その理由のひとつとして「セルフ・ハンディキャッピング」が挙げられます。
これは心理学の用語で、自分で自分にハンディキャップを負わせること。たとえば、試験の直前までゲームに夢中になっていたとすれば、点数が悪かったとき「これは自分の頭が悪いせいじゃなくて、ついゲームをやりすぎて勉強できなかったからなんだ……」などと言い訳をすることができます。「自分に能力がないから結果が悪かったのだと思いたくない」、そういう傾向のある人が、セルフ・ハンディキャッピングをしがちだと実証されています。
また、セルフ・ハンディキャッピングをすると、高校・大学生よりも小・中学生のほうが、成績が下がりやすいという調査結果もあります。
これらを見る限り、小さいうちの「先送り」はあまりよくないと考えられます。目の前のハードルが高すぎるのであれば、前述のとおり簡単なことから始め、先送りしない習慣をつけることが大切です。
また、返されてきたテストについては、その点数ではなく、子どもが「がんばったこと」をほめてあげてください。テストは「頭の良さ」ではなく、努力をはかるものだと実感できれば、セルフ・ハンディキャッピングをせずにすむようになるかもしれません。
Q:「先送り」はすべてNG?
A:知識を熟成させる分散学習的な「先送り」もある
とはいえ、先送りがすべて悪いとはいえません。脳に入れた知識の熟成を待つ、「分散学習的な先送り」もあるからです。分散学習とは、同じ内容を、時間をおいてまた学ぶこと。一度に集中して学ぶ集中学習より、分散学習のほうが効率がよいことが実証されています。
それは、時間をおいている間に脳の神経回路網の配線が変わり、その情報を思い出したり、他の情報と結びつけて使ったりしやすい形になるためだと考えられています。
たとえば、難しい課題を与えられたとき。さまざまな情報を調べ、考え抜いても、その日にはどうしても答えが出なかったのに、一晩寝たあとに突然良いアイデアを思いつくことがあります。こんなとき、「ひらめいた」「降りてきた」などといいますが、これがまさに分散学習の効果であり、学んだ知識が熟成されて「つながった」状態といえると思います。
特に思春期以降の子どもたちは、自分なりに勉強法を模索しています。すぐに勉強を始めないのはセルフ・ハンディキャッピングなのか、知識の熟成を待つ状態なのか、さまざまな要素が絡んでいますので、いちがいに「先送りはやめなさい」といえば解決する問題ではありません。子どものやろうとしていることを、まずは少し引いた視点で見守ってあげてください。
Q:やる気を持続させるには?
A:教材は自分で選ぶ・「じゃましない他者」のいる環境で学習
特に思春期以降の子どもたちに対し、保護者ができることとして有効なのは、勉強に使うものを「自分で選ばせる」ことです。自分で選んだ、好きな文房具を使えば気分も上がりますし、教材も自分で使いやすいものを選ばせることが重要です。
また、集中力を切らさないコツとして「じゃまをしない他者のそばで勉強すること」が挙げられます。部屋にとじこもって勉強するより、自宅のリビングや学校の図書室、塾などの学習室などのほうが集中できるのです。
Q:「教材や問題集をためてしまう」のはOK?
A:好きなところだけ「虫食い」は自然な使い方
「自分で選んだ問題集なのに、ほんの少ししか使っていない」「教材をためてしまって困る」こんな保護者のかたの声をよく聞きます。たしかに、教材がもったいないという気持ちはわかります。とはいえ、学習効率からいえば、教材を隅から隅まで使うことには、あまり意味はありません。「好きなところだけ」使っても構わないし、苦手な教科は簡単な問題だけやっても構わないのです。量は少しでも、問題に取り組んでは答え合わせをする作業を長期的に続け、頭の中で学習したことの全体イメージをつくっていくほうが大事です。
最もよくないのは、子どもが「全部使わなきゃいけないのに、使いきれない」と罪悪感を抱いて、勉強そのものが嫌いになってしまうケースです。むしろ保護者は、「ここだけ使えばいいよ」と認めてあげることが大切なのです。
AIの場合は、膨大な情報をひたすら取り込むことで能力が上がりますが、人間の脳はそのようにはできていません。「分散学習」の考え方に照らしても、教材の「虫食い」的な使い方は人間の脳のしくみに合っていると思います。
Q:思考力はどうすればつく?
A:「好きなこと」から知識を広げて
近年、中学入試や高校入試でも、社会課題や身近な問題について考えさせるような、思考力を問う問題が増えています。そもそも思考力とはなんでしょうか?
思考力の土台となるのは、幅広く深い知識です。新しいアイデアも、知識なしでは生まれてこないからです。「広く深い」知識を得るためには、自分の好きなことを起点に、興味の赴くままに「自分で調べる」ことが大切です。ゲームのことでも、スポーツや音楽のことでも、なんでも構いません。どんな事項も社会や経済と関わりがありますし、科学や歴史、哲学などさまざまな分野につながってきます。「何がこの先役に立つか」は、数年先の株価を予想するようなもので、誰にもわかりません。
人間の脳は、膨大な情報を休みなく記憶できるAIとはしくみが異なっています。『進化する勉強法』では、人間の脳のしくみに合った、無理なく効率的な勉強法について紹介していますので、ご一読いただければ幸いです。
漢字学習から算数、英語、プログラミングまで 進化する勉強法
「実験心理学」の科学的根拠にもとづく、子どもの心や脳にとってベストな学び方を紹介します。2020年からの教育改革にも対応し、英語やプログラミング学習など最新の話題にもふれつつ、「学業や社会的に成功するカギは?」「本当に身につく勉強法は?」「やる気を高めるには?」「興味を持たせる工夫は?」など、すぐに実践できて効果を上げられる勉強法やアイデアを収録しています。
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