幼児期の「運動」は性格形成や学びにつながっていた!【前編】

 屋外に遊びに連れていく時間が十分に取れず、子どもが運動不足になりがちというご家庭は少なくないでしょう。また、知育などを優先して運動が後回しになっているケースもあるかもしれません。しかし、運動は体の発達や健康管理に効果があるだけではなく、心の発達や小学校以降の学びにもつながっています。運動が幼児期の子どもに及ぼす影響について、東京学芸大学准教授の吉田伊津美先生にうかがいました。

運動遊びを通してさまざまな動きが熟達していく

 幼児期の子どもに運動が大切であることを否定されるかたはいないでしょう。しかし、「なぜ大切か」と質問されたら、どう答えるでしょうか。おそらく、「体の発達のため」「健康のため」「運動が得意になるため」など、体や運動の側面から答えるかたが多いと思います。確かにそれらは運動の主要な効果ですが、実は運動は心の働きや学びにつながっていることも知っておいてほしい事実です。

ここで言う運動は、公園などで自由に走り回るような運動遊びをイメージしています。こうした運動遊びには、走る・投げる・跳ぶ・転がる・ぶら下がる・しゃがむ・蹴るなど、実に多様な動作が含まれています。特に幼児期から小学校低学年にかけてはいろいろな動きが身につきやすく、その後の発達につながるため、遊びの中で多様な動作が経験できるように心がけてください。スポーツクラブなどで運動するのもよいのですが、特定の動きだけにならないように注意が必要です。小学校の体育の授業でサッカーの時間だけはヒーローだけど、他の動きが全然できないような子どもがいるという話もよく聞きます。

幼児期に育ちやすい「運動有能感」が成長の支えになる

 子どもが自らの意思でする運動遊びは楽しくてたまりませんから、とても主体的に遊びます。その中で、「この高さからジャンプできた」「三輪車に乗れるようになった」など、できることが増えると自分に対する肯定的なイメージが育まれます。これを「運動有能感」と言います。運動有能感は、運動はもちろん、その他のあらゆることに関して好奇心をもって挑戦する姿勢につながります。もちろん絵を描いたり工作をしたり、他の活動でも有能感は育ちますが、この時期は特に体を使って「やったー!」と感じることが自信につながりやすいのです。

子どもの行動傾向と運動能力の関係についての私たちの研究では、運動能力が高いほど、社会性、がまん強さ、リーダーシップなどの面で全般的にポジティブな結果が表れました。運動遊びをたくさん経験する中で、心の働きや性格形成にプラスの影響が及ぼされることが考えられるのです。それにより小学校以降も学習をがんばったり、人間関係が充実したり、さまざまな面の育ちにつながることが容易に想像されます。

子どもの具体的な姿をご紹介しましょう。私がうかがったある園で、なかなか遊びの輪に加われない内向的な子どもが、あるとき、ひとりでのぼり棒にチャレンジを始めました。毎日ひとりで黙々と登ることを試すうちに登れるようになると自信をつけ、他の子どもに登り方を教えるなど自分なりに周囲と関わり始め、さらに他のことにもチャレンジするようになりました。この子どもの姿は、運動有能感が内面に大きな影響を及ぼすことをよく物語っています。

幼児期の運動遊びは小学校の学びにもつながる!

 運動遊びには、小学校以降の教科学習につながる要素も含んでいます。例えば、縄跳びなどの数を数える遊びはいろいろありますし、人数合わせでは足し算や引き算を自然と行っています。またブランコは振り子の原理、すべり台は摩擦、シーソーは天秤、ボール投げは放物運動など、遊びには理科や算数の原理となる要素が多く見られます。意識するかどうかは別として、学校で振り子の原理を学んだ際、ブランコの経験と結びついて理解しやすくなることもあるはずです。

その他にも、友だちとのやり取りの中で言葉の発達が促されたり、遊びを通して上下・左右・前後などの空間的概念が身についたり、ルールを守ったり作ったりすることを覚えたり、たくさんの学びがあります。このように運動遊びは、体や動きの発達だけではなく、心の働きや行動傾向、さらには学びも大きく関わっているのです。

後編では、生活の中で運動の場面を増やすコツを解説します。

プロフィール

吉田伊津美(よしだ・いづみ)

東京学芸大学総合教育科学系幼児教育学分野准教授。東京学芸大学大学院教育学研究科保健体育専攻修了。専門は健康教育学。著書に『幼児の運動あそび~「幼児期運動指針」に沿って』(チャイルド社)、『幼児期における運動発達と運動遊びの指導~遊びのなかで子どもは育つ』(ミネルヴァ書房)など。

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