考える力・聞く力を育てる「哲学対話」を知っていますか?親子の会話に取り入れるには
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子どもの考える力や聞く力を育てるとして注目されている「哲学対話」。日常で感じる問いに対し、考えたことや感じたことをみんなで話し合う活動です(学校での実践例についてはこちら)。哲学対話の普及と実践を行うNPO法人こども哲学・おとな哲学アーダコーダの副代表理事である井尻貴子さんに、親子で行うときのポイントについて解説いただきました。
子どもの哲学対話は、集団で行うことがベストですが、親子で取り入れることも可能ではあります。年齢としては、幼児や小学生がやりやすいでしょう。子ども哲学では、子どもの問い(ワンダー)を大切にしますが、「なんでだろう? どうしてだろう?」という気持ちを、子ども自身が相手と分かち合いたいと思うかどうかが重要だからです。
また、親も哲学対話を実際に体験しておくと、進めやすいと思います。
進め方は形にこだわらず、子どもがやりやすいように
哲学対話にも形はあって、基本的には円になって座ります。これには、上座・下座をつくらないという意味があり、みんなが対等になります。けれど、親子でやるときは形にこだわらないでよいでしょう。
普通の会話と哲学対話を分けたほうがいいか、織り交ぜていくほうがいいかでいうと、幼児の場合、分けずに日常生活の中で行うことが自然でしょう。哲学対話を実践しているある保育園では、意識して日常生活と結びつけて行っています。
小学生は、本人のやりやすいほうで構いません。普段の中で話すことが難しいようならちょっと雰囲気を変えて、『てつがくおしゃべりカード』というトークテーマが書かれたカードなどを利用するのも一つです。そこからオリジナルのカードをつくるとしたらどんな問いにする? という展開もできると思います。絵本を読んで、「なんでだろうって思ったところある?」と始めるのもよいでしょう。
また、小学生くらいだと質問されることに慣れていない子が多いです。哲学対話を行う前提である「セーフティ」(知的安全性=自分の意見を安心して話せる状態)にも関連するのですが、往々にしてあるのが、大人の「何でそう思うの?」が質問ではないケース。どういうことかというと、子どもが何かしたときの「何でそうしようと思ったの?」は質問ではなく、すでに怒られていますよね(笑)。それに答えても、そんなことしちゃだめでしょ、となるだけだと子どもはわかっている。なので、そういった会話の流れがよくある場合、子どもも答えること自体に不慣れだったり、積極的じゃなかったりします。
もしそうであれば、哲学対話を行うときの雰囲気は変えたほうがよいでしょう。カードなどを使ってゲームっぽくしたり、場所を変えてみたり。会話を助けるツールとしてコミュニティボールという毛糸のポンポンがありますが、そういったグッズを使ってマインドセットするのもよいと思います。これが登場したら哲学対話の時間ね、と区切るもので、映画『ちいさな哲学者たち』ではろうそくを使っていましたし、ランタンを使っている保育園もあります。
コミュニティボール。ハワイの学校では新学期になると、クラスのみんなで毛糸を巻いてつくる。コミュニティの象徴でもある。
子どもの問いかけをキャッチし、探求を一緒に楽しむ
哲学対話で大切なことは、子どもが問いたいことを一緒に面白がって考える、自分も疑問や考えを出し合う、という姿勢です。親が教えるのではなく、一緒に探求する。考えさせよう、こちらの方向に進めよう、と誘導しないことが重要です。
子どもの問いを出発点としたいですが、子どもの問いたいことが明確にないときは、普段の会話の中から拾い上げられるとよいですね。たとえば、最近私が4歳の息子とした会話としては、
子「仮面ライダーかっこいい」
親「なんでかっこいいと思うの?」
子「変身するからかっこいい」
親「変身するものは、みんなかっこいいの?」
子「そうだよ」
親「なんで変身するとかっこいいの?」
子「変身して、合体するとかっこいい。(変形するロボットの例を挙げる)」
親「なんで変形するロボットはかっこいいの?」
子「強いから」
親「なんで強いとかっこいいの?」
子「強いと、弱い人を助けられる」
親「弱い人を助けられる人が強いってこと?」
子「うん、そうだよ。だから強くなりたいんだ」
と、かっこよさとは何か? について話しました(笑)。他にも、強くなりたい、という一言から、強さとは、優しさとは何か、というテーマで語り合ったことも。
毎回丁寧に話をすることは難しいですが、哲学対話モードになるときは、短くてもいいので一緒に対話する。そして、親はつい先回りして言葉を発してしまいがちですが、ぐっと押さえて相手が話すことを尊重したいものです。
子どもの性格に応じて進める
言葉で表現するのが得意な子もいれば、そうでない子もいます。聞かれることで、質問攻めにされていると感じる子も。そのため子ども向けのイベントでは、話しても話さなくてもいい、いっぱい話すことが大事なのではない、ということも最初に伝えています。
ハワイの子ども哲学で大事にされている考えが“We"re not in a Rush”、急いで言葉を出させようとしない、ということ。その子のタイミングで言葉になればいいし、言葉にならなくても考えることが大事、と言われています。「ゆっくりじっくり」聞く・話す、これも心に留めておきたいポイントです。
逆によくしゃべる子の場合、集団のときは、より「哲学すること」ができるように接しています。そのテーマについて話したいことがたくさんあるなら特に何もしませんが、知識を披露する感じで話し続けているようなら、その子自身の考えを聞く質問をしたり、他の人の意見も聞いてみようか、と言ったり。
家庭では、「話し切る」という体験は大事なので聞き切るようにしつつ、「私も考えていることを話してもいい?」「私はこう思うけど、どう思う?」と、タイミングが合えば聞いてみるとよいかと思います。
対話を進め、考えを広げる7つの質問
哲学対話では具体的にどんな質問をすればよいの? という悩みに対しては、ファシリテーターのヒントというものが参考になるかもしれません。
(特定非営利活動法人子ども哲学おとな哲学アーダコーダ著『こども哲学ハンドブック 自由に考え、自由に話す場のつくり方』より)
質問には、思考を掘り下げる役割があります。聞かれて初めて考えることもあり、それによってその子自身も知らなかった自分の考えに気付くことができます。自身の新しい考えを知ることも、哲学対話の醍醐味といえます。
私は哲学対話で、考えることって楽しい、話し合うのって面白い、と感じられたらよいと思っています。子どもの哲学では子どもの問いを大切にしますが、自分の問いを大事にされる経験を通じて、その気持ちに蓋をせず、世界への興味を持ち続け、新しい考えや新しい自分を発見できることが、哲学対話の良さだと考えています。
まとめ & 実践 TIPS
子どもの考える力・聞く力を伸ばすことも魅力的ですが、哲学対話をおうちで行うことで、まず前提である「セーフティ」が親子の間で保たれているのか、見直すきっかけにもなると感じました。子どもの問いや話を大切にする時間を意識して持つことで、親子の時間もより豊かなものになるのではないでしょうか。
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(取材・文/荻原幸恵)
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