記述は解答を写して終了しています[中学受験]

平山入試研究所の小泉浩明さんが、中学受験・志望校合格を目指す親子にアドバイスする実践的なコーナーです。保護者のかたから寄せられた疑問に小泉さんが回答します。




質問者

小4女子(性格:大ざっぱ・強気タイプ)のお母さま


質問

本人には記述の苦手意識はありませんが、ところどころ口語文体で記入してしまいます。現在は、受験用の問題集を利用して自宅学習をしていますので、このようなときは解答を写して終了しています。このまま続けてよいものなのでしょうか。他に良い方法はありませんか?


小泉先生のアドバイス

もうひと手間かけることで学習効果が大きく違ってきます

今回は、物語文について考えていきたいと思います。たとえば「なぜノートを破ったのか」という問いに対して、「お母さんに叱られて、ムカついたから」という答案を書いたとします。模範解答を見ると「お母さんに叱られて、腹が立ったから」とあるので、「ムカつく」を「腹が立った」に書き直して終わり。ご質問にある「解答を写して、終了しています」とは、以上のようなことでしょうか。もしそうだとしたら、少々もったいない学習であると思います。
ここまで復習しているのでしたら、もうひと手間かけることで学習効果が大きく違ってきます。それは、もう一度本文を読んで、「腹が立った」という表現が本文のどこから出てきたのか、何を根拠にしているのかを確かめるということです。そして、どのような時に、「腹が立つ」という表現を使うのかを実感することです。

物語文をよく読んでみると、気持ちには「方向」と「質・量」などがあることがよくわかります。著者はそれらにあった言葉を巧みに使い分けて、登場人物の気持ちを表現しようとします。ここで方向性とは、誰に対する気持ちなのかということです。
たとえば、今回の問いの例で「ノートを破った」とありますが、「ノートに書いていた詩をお母さんにいたずら書きと誤解されたために腹が立った」のだとしたら、それはお母さんに対する腹立ちでしょう。しかし、「一生懸命やった計算練習なのに、半分以上間違えてしまい、それをお母さんに注意されたため」だとしたら、それは自分自身に対する腹立ちもあると思います。そしてこのように方向が違えば、使う言葉も違ってきます。
たとえば自分に対する腹立ちの場合は、「みじめ」や「悔しい」という気持ちを使った方がぴったりする場合もあるでしょう。

また、気持ちはその「質・量」によっても使うべき言葉が違ってきます。たとえば、「腹が立つ」という気持ちを表す言葉の類義語や縁語はいくつもあります。「情けない」「いまいましい」「腹の虫がおさまらない」「みじめ」「惜しい」……などがそうです。そして、それぞれに使うべき場面や表現できる気持ちが少しずつ違ってきます。
たとえば、先ほどの答案の解答が、「お母さんに叱られて、悔しかったから。」としたら、「腹が立った」よりも子どもの気持ちはかなり深刻であると思えてきます。もちろん本文の内容に沿った答案が正解になるわけですが、そうした言葉の持つ微妙な意味合いは、具体的な場面設定や人間関係、そして言葉のやり取りのなかでしかつかめないものです。
せっかく模範解答の表現を書き写すのであれば、その言葉が使われた物語文の中にもう一歩踏み込んで、気持ちの方向や微妙な表現の意味合いを身に付けていってもらいたいものです。

豊かな言葉を持たないと、他人の気持ちはもちろん、自分の気持ちもわからなくなります。当然、物語文における登場人物の気持ちもわかりません。よく、「言いたいことは頭の中にあるが出てこない」という生徒さんがいます。言葉が足りないために、自分の思いを伝えられないのです。それほど、「豊かな言葉」は国語の基礎なのです。
しかし、この基礎力はなかなか身に付きません。今回のように模範解答の磨かれた言葉に接した時に、そのもとになっているさまざまな事がらを物語文からつかむことで、それぞれの言葉の持つ微妙な響きの違いを身に付けていければ、言葉の力を大幅に向上させることができると思います。


プロフィール


小泉浩明

桐朋中学・高校、慶応大学卒。米国にてMBA取得後、予備校や塾を開校。現在は平山入試研究所を設立、教材開発など教務研究に専念。著作に「まとめ これだけ!国語(森上教育研究所スキル研究会)」などがある。

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