「この行動は、こういう気持ちの表れだ」と算数的に教えても良いか?[中学受験]

平山入試研究所の小泉浩明さんが、中学受験・志望校合格を目指す親子にアドバイスする実践的なコーナーです。保護者のかたから寄せられた疑問に小泉さんが 回答します。




質問者

小4男子のお母さま


質問

物語に出てくる登場人物の行動から、その登場人物の「思っていること」「感じていること」を推測することが若干苦手なようです。最近、読書に興味が出てきて読んでいますが、答え合わせの際「この行動は、こういう気持ちの表れだ」と算数的に教えても良いのでしょうか。


小泉先生のアドバイス

第一段階としては問題ないと思います

心情表現が表わす気持ちを推測するのが苦手な生徒は少なくありません。そのような生徒は、心情表現自体を探すのも苦手であり、仮に探せたとしてもそれが表現している気持ちをなかなか的確に示すことができません。原因のひとつとしては、やはり読書の習慣があまりないためと思います。あるいは日常の生活において、周囲に対してあまり注意を向けず、ほかの人の様子や気持ちをそれほど気にすることなく過ごしているからかもしれません。「大ざっぱ」で「論理的」なタイプの生徒は、特にこの傾向が強いと思います。

さて、「算数的に教えても良いのでしょうか」というご質問ですが、これは「一対一対応」で教えても良いか? ということだと思います。たとえば「頭をかいた」という表現を教える時に、「頭をかいた」=「恥ずかしい」という具合に示すということです。
結論から申し上げますと、第一段階としては問題ないと思います。心情表現は単純なものから、複雑・難解なものまでありますが、少なくとも単純なものは知識として、「一対一対応」で覚えても問題ないでしょう。ただし、心情表現に少し慣れてきたら次の段階に移行してください。

次の段階では、心情表現の「多様性」も考える必要があります。たとえば、「何をしてるんだか」という言葉を登場人物がつぶやいたとします。この言葉だけからすると、登場人物は相手を「バカにしている」とか「非難している」ように思えます。しかし、必ずしもそうとは言い切れません。それは、登場人物と相手の、その時の人間関係や環境に影響されるからです。
たとえば、母親がまだ小さな我が子が懸命にサッカーをしている姿を見ている時を考えてみましょう。ゴール前におけるシュートの決定的なチャンスを、見事な空振りで失敗した時に、「何をしてるんだか」とつぶやいたとします。もちろん「ダメだな」という非難は少しはあるでしょうが、それ以上に「残念! がんばってよ」とほほえましく思っている気持ちが強いと思います。しかし、登場人物が相手を心の底から憎んでいる場合はどうでしょう。ここでは「非難」以上の気持ち、たとえば「あざけり」とか「さげすみ」と言った表現が的確かもしれません。
このように、同じ言葉でもその時の人間関係によって裏にある気持ちが違ってくることを、生徒は知る必要があるのです。

心情表現の多様性は、他にもあります。たとえば、「複数の気持ち」を同時に持つ場合です。小学6年生の主人公の男の子が、外出する時に「寒いから、マフラーして行きなさい」と母親に注意された場面を考えてみましょう。おそらく男の子の気持ちとしては、「寒くないよ。本当にお母さんはうるさいんだから」というところでしょう。しかし同時に、自分を心配してくれる母親の愛情を感じていることも確かなのです。
「うれしいけど、恥ずかしい」「憎らしいけど、愛している」「つらいけど、楽しい」などなど、現実の人間は複雑であり、同時に複数の感情を持ち得ます。そして、当然、物語文の登場人物の気持ちもそのように表現される場合があるのです。

以上、心情表現の「多様性」についていくつか例を挙げました。他にもいくつかケースがありますが、心情表現が苦手な生徒に初めから多様な心情表現を説明すると混乱を招く恐れがあります。最初に申し上げたように、第一段階としては「一対一対応」で、心情表現とそれが表わす気持ちの関係を単純に示すだけで十分だと思います。そして慣れてきたら、「実は……」ということで、多様な心情表現についても教えてあげてください。


プロフィール


小泉浩明

桐朋中学・高校、慶応大学卒。米国にてMBA取得後、予備校や塾を開校。現在は平山入試研究所を設立、教材開発など教務研究に専念。著作に「まとめ これだけ!国語(森上教育研究所スキル研究会)」などがある。

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