良いアドバイスや声掛けの方法[中学受験]
質問者
小3男子のお母さま
質問
記述式で答えるのが苦手なようです。文をつなげて答えることが苦手なようで、ずっと悩んで次に進まない様子です。声を掛けると書き出すのですが、アドバイスをするほうも「ここまで言ったら答えそのままではないか」という声掛けしかできていないような気がします。良いアドバイスや声掛けの方法があれば教えてください。
小泉先生のアドバイス
「考える余地を残す」ように声掛けする
記述問題を前に、なかなか書き出せないお子さまは少なくありません。「何を書いてよいかわからない」「変なことを書いて笑われたら……」などの思いから固まってしまうようです。そんな場合でも、いくつかの原則を守って適切な声掛けをしてあげれば、少しずつ書くことに慣れてきます。
それでは、適切な声掛けとはどんなものなのでしょうか。それは、「考える余地を残す」ように声掛けすることだと思います。このように書くと、当たり前と思われるかもしれませんが、案外できていない場合が多いようです。たとえば、お母さんの「声掛け」が「説明」になり、最後は「独演会」になってしまうようなケースです。解説そのものは完璧なのですが、お子さま本人がしっかり聞いていないため、十分に理解できないのです。そのような場合は、次に同じような問題が出題されてもおそらく良い結果は期待できないでしょう。
それでは、「考える余地を残す」ように声掛けするには、どのようなことを心掛ければ良いでしょうか。それは、「手順を踏まえる」「範囲を限定する」「選択肢にする」などだと考えます。例として、次のような問いでお子さまの手が止まっている場合を考えてみます。
【問い】「大切な海を汚す原因のひとつ」になっているのは、どんなことですか。文中の言葉を使って答えなさい。
まず心掛けたいのは、「手順を踏まえる」ということです。解法の手順が決まっていると、学習者も安心して自分から手を動かせるようになります。たとえば記述問題の場合は、文末から考えるとやりやすいので、声掛けとしては「これは何問題かな?」や「文末はどうなるかな?」になります。そして、もしお子さまが答えられなければ「ココに注目しよう」と言いながら、問いの「どんなことですか。」に線を引いてあげます。または「文末には『~気持ち』『~だから』『~こと』『~を強調している』などがあったね」などとヒントを出すのも良いでしょう。これらの声掛けが、「範囲を限定する」や「選択肢にする」ということです。
国語の場合、「答えは問題文の中にある」が原則です。物語文で登場人物の気持ちが問われる問題でも、本文の中の心情表現を根拠にするのですから答えは本文中にあると言えます。しかし、本文が長すぎると答えを探す意欲がなくなります。そこで、「この辺にあるよー」と探しやすくしてあげるのが「範囲を限定する」です。範囲は、そのお子さまの国語力によって段階を設けると良いでしょう。実力のあるお子さまなら、範囲を広く示します。またそうでないお子さまには、狭い範囲で示します。
今回は、問いの「どんなことですか」の箇所を示すことで、文末が「~こと」であることを気付かせようとしたのです。かなり大胆なヒントですが、しかしながら「これは『こと問題』だから、文末は『~こと。』でしょう」という声掛けとは大きな違いがあります。後者は答えそのものですが、前者は答えの一歩手前だからです。答えではないのですから、答えを出すためにお子さまはわずかではありますが考えるはずです。しかも、問いの「どんなことですか」に注目することで、文末がわかることも学べました。次からはこの経験を生かし、徐々に自分で考えられるようになるでしょう。
文末が決まれば、次は問われていることを考えます。今回の問いなら、「大切な海を汚す原因のひとつ」であり、本文の中に書いてあるはずです。この段階でつまずいている場合も、「範囲の限定」は有効です。すなわち、「傍線部の前の3行の中にあるよ」などのアドバイスが良いでしょう。
「選択肢にする」というのも、声掛けの良い方法です。たとえば登場人物の気持ちが問われる問題で、心情表現は見つけられましたが、表現されている気持ちがわからない場合があります。「さあ、どんな気持ちかな?」と促しても、答えようとしません。そこで「悲しかったんだよね」なんてお母さんが答えを示してしまうと、台無しになってしまいます。お子さまは「そうだ、そのとおり!」とお母さんが与えてくれた答えに飛びつき、考えることをやめてしまいます。
そんな場合は、「嬉しかったのかな? それとも悲しかったのかな?」と、選択肢にして考える余地を残しておきます。どちらか正しいほうを選ぶということで、考えること止めさせないのです。そしてその結果、正しいほうを選べばそれで良いし、仮に間違ったほうを選んだ場合は、「本当にそうなの?」と念を押せば良いでしょう。さらに、正しいほうを選んだ時でも、たまに念を押してあげると、どちらかを適当に選ぶのではなく、しっかり考えてから発言するようになると思います。
さて、記述問題で書くべき要素が全部整ったら、いよいよ書き出すことになります。しかし、この期に及んでまだ書けない場合は、書き出しを示してあげると良いでしょう。まだ慣れていない自転車をこぎ出す時のように、後ろの荷台を支え、やがてそっと手を離す要領です。たとえば、「書き出しは『工場から……』がいいね」という具合です。そして最後に「てにをは」を確認して、間違いがあれば「ここと、ここがおかしい」と指摘します。いずれにしても全部教えるのではなく、部分的に教えるという「限定」を守ることで、お子さまの思考を止めないことが大切です。
今回は「手順を踏まえる」「範囲を限定する」「選択肢にする」などの手法を示しましたが、いずれも「考えることを続けさせる」ということを重視した声掛けです。お子さまに勉強を教えていて「わからない」を連発されると、どうしても答えそのものを示してしまいがちになります。そんな時でも、なんとかして皮一枚残してお子さまに答えさせるように努力するのが良い声掛けです。考えることを続けさせることができていれば、たとえそれが少しであったとしても、価値ある勉強になっていると思います。