埼玉県立伊奈学園中学校・総合高等学校の進路指導の秘密に迫る!<前編>

カギになったのは生徒─教師間の信頼関係と、
生徒たちの学ぶ意識の高さ

中学から形づくられてきた先生がたへの信頼感

進路指導を行ううえで大きかったのは、「生徒と教師との信頼関係」だったと佐藤先生はおっしゃいます。
とにかく生徒たちの、学校と教師に対する信頼度が高いんですよ。私は決して話しやすいほうの教師ではないと思うのですけれど(笑)、生徒たちが積極的に疑問や相談を投げかけてきますし、こちらの助言もとても素直に聞くんです。
そういう教師との信頼関係が築けていたからこそ、私たちの指導に対して彼らは最後まであきらめずに希望の大学に向かっていけたのだと思います。これは、中学校からしっかりと指導を受ける中で、教師との信頼関係や人間関係をつくってこられた結果なのだと思います」
さらに、生徒たちの特長として「とにかく吸収が早い」とも。
「好奇心も探究心もすごくあって、こちらが与えた機会をしっかりととらえて身につけていく。とても素直ですし、スポンジが水を吸うようにどんどん吸収していきます。
私の印象としては、とにかく生徒が教師に手を抜かせてくれなかったという感じですね。この子たちをなんとかしてあげなくてはと思わせるような生徒たちでした。だから私たちが生徒を引っ張りながらも、実は私たちのほうが生徒たちに引っ張られてきたような気がします」(佐藤先生)



自らの志望実現のため、積極的に活動する生徒たち

また、生徒たち自身の向上心や自己実現への意識もかなり高いと感じたそうです。それは生徒たちが中学からのキャリア教育を経て、自分たちの将来を大筋ながらも考えてきていたことが大きく影響しているようです。
「大学受験では、『とにかく有名大学に入りたい』という子もいるものですが、第1期生にはそういう生徒は皆無でした。
それはやはり常に自己を見つめ、自分に何が向いているかをしっかり模索してきたからだと思うんですよ。
私たちが『将来、何がやりたいんだ?』『どんな職業に就きたいんだ?』と問いかけると、彼らなりに答えをもっているんですよね。教師はその志望進路を実現するためにはどの学校へ進めばよいのか一緒に考え、指導をしていったわけです。
ただ学力レベルで選ぶのではなく、例えば法律家になりたいという生徒がいれば、『法学でその生徒に合った学部をもつ大学はどこか』というように指導します。生徒自身も大学の「学部・学科プレゼンテーション」などで自主的に調べてきますし、進路実現のために自分たちは何をやるべきなのか、どうすれば目標に近づけるのかもきちんと考え努力していましたね」(佐藤先生)


中学から6年間を見通した
積極的なキャリア教育プログラムと進路指導

将来の志望に直結した学部・学科から大学を選択し、その目標に向かって生徒と教師が一丸となって対策を立てる。これができるのは、「中学から6年間を見通したキャリア教育を行ってきたから」と佐藤先生はおっしゃいます。
同校ではキャリア教育に力を入れており、生徒たちは中学からの多彩なキャリア教育プログラムを通して、早い時期から自分たちの将来を考えていきます。それは、同校の設置母体校である伊奈学園総合高等学校が、さまざまな専門課程をもつ『総合選択制』の学校であるということも大きく影響しているようです。
実は、伊奈学園総合高等学校には7つの学系があり、生徒たちは自分の志望進路や興味・関心により、自分に合った学系や講座を選択し学んでいきます。そのため、伊奈学園中学から進学する内進生も、高校進学時に人文系か理数系のどちらかを選択する必要があるそうです。(※編集室注:同校の総合選択制の詳細については後編で詳しく紹介します)
伊奈学園中学校の坂井修義教頭先生に伺いました。
「生徒たちは中学校3年生の段階で、高校での学系を人文系か理数系かのどちらかに決めます。高校ではそれを踏まえて具体的な学習や進路指導が始まるわけですから、その時点では自分の将来像をおぼろげでも決めなければならないんですよね。そのため、中学でも早い段階から自分の将来の道筋を探るためのさまざまな取り組みを行っています

それでは、その取り組みについて具体的に紹介していきます。


中学での取り組み
─自分史づくりと職場体験─

同校の多彩なキャリア教育プログラムの中でも大きな効果を上げたのが、「自分史作成」と「職場体験」「仕事調べ」の3つの取り組みです。
「自分史の作成」とは、生徒が自らの生い立ちやこれまでの軌跡を振り返り、将来の志望までも書き記していくというもの。自分の過去や興味・関心のある事柄を改めて見つめ直すことで、自己理解を深め、将来を考えるのに役立つのだそうです。

「職場体験」や「仕事調べ」は職業理解を深めるために行われます。職場体験では地元の企業の協力を得て、生徒たち自身が希望する会社に出向き、実際の業務を体験します。話を聞くだけとは違い、実作業を経験することで、仕事の大変さや難しさ、やりがいも学びます。それにより「仕事」や「将来」について深く考えるようになるそうです。

「第1期生の生徒たちにアンケートをとった際に、『これらの取り組みが将来を考えるきっかけになった』と答えている生徒がとても多かったのです。教師が与えたしかけが、少なからず実を結んだということが証明されたようでうれしかったですね」(坂井教頭先生)



作成した自分史はみんなの前で発表。他の生徒たちの自分史を知ることもよい刺激になります。


小グループに分かれ、実際の職場で作業を体験します。この経験は生徒たちの職業観を変え、世界観を広げる良いきっかけとなっているそうです。


高校での取り組み
─大学訪問や「学部・学科プレゼンテーション」─

高校では、中学のキャリア教育で培った自らの職業観や将来の志望を、さらに具体的な形にするため、もう少し踏み込んだプログラムが用意されています。
高校1年時には「仕事調べ」の一環として、自分の家族の職業を取材し、それをまとめるという取り組みが行われています。また、遠足や修学旅行を利用した大学見学ツアーに加え、2年時にはオープンキャンパス訪問の指導も行われました。さらに、大学の学部・学科調べを行い、それをプレゼンテーションする取り組みも行われています。
とにかく、ことあるごとにキャリア教育や進路にまつわるカリキュラムを組んでいきましたね」(佐藤先生)



中高一貫校ならではの継続的キャリア教育プログラム

中学から高校への継続的キャリア教育プログラム。このように多彩な取り組みが展開できるのは、中高一貫校ならではと坂井教頭先生はおっしゃいます。
高校選択や高校受験に時間を費やさずにすむので、自己のあり方や将来の生き方といったものを模索する時間を多くとれるのです。これは中高一貫校としての強みだと思いますね」(坂井教頭先生)


<まとめ>
こうして先生がたの熱心な指導と多彩なキャリア教育のもと、早くから自分たちの将来を模索し、それを実現するための努力を重ねてきた生徒たち。結果として多くの生徒が自らの志望進路に進むことができたわけですが、その裏には、生徒たちの学ぶ意欲を引き出すための教育カリキュラムの工夫もありました。
後編で詳しくご紹介します。


プロフィール



「進研ゼミ小学講座」は2020年新課程に対応して、リニューアル。基礎から応用までの学力向上はもちろん、自ら学ぶ姿勢を身につける。
学んだ知識を使って、自分なりの答えを導き出す。そんな体験を繰り返すことで、「自ら考え表現する力」を育んでいきます。

子育て・教育Q&A