中学受験の危険 その2[中学受験]

ちょうど父親世代の30代~50代のサラリーマン男性が読者である大手夕刊2紙に中学受験の特集記事が出るようになった。その特徴は、ブームの落とし穴に警告を与えるものになっている点だ。それだけ中学受験が社会的な現象ということでもある。

前回引用した1紙とは違う、もう一方に掲載されているのは、普通の父親が中学受験に巻き込まれていく様子をまとめた本の著者による警鐘。
そこでは、偏差値という相対評価に翻弄されていくすさまじさが改めて強調されていた。この場合は、母子がガンバリ、父親もその有様を月刊誌に同時進行ルポとして1年間連載するというケースであったから、受験の結果は第1志望に不合格であったものの、家族でのりきれた一種の充実感がある。
しかしこのケースの良さは、父親が手記を書くため、かなり客観的な観察ができていることと、受験の伴走者としての連帯感を家族と共有しているということである。つまり家族と共に熱くなっている一方、その状況を客観視しようという意識的な冷めた観点とのバランスがとれているのだ。
しかし、そういう恵まれた状況の一家でさえ巻き込まれる偏差値競争の磁力は、強力なものであった。

よくそうした折に受験雑誌や塾の保護者会などで言われる保護者へのアドバイスには、「成績に一喜一憂しないこと」というものが多い。しかし、これほど妙な話はなくて、一喜一憂する仕組みになっているからこそ塾通いが成り立っているのであって、それがなくなればむしろ「お客様」状態で、塾にとっては良くても親と受験生にとって甚だ不都合なのである。

それでこのアリ地獄のような偏差値の競争を、なるべく絶対評価のように利用することをおすすめしたい。
筆者の手法はあちこちで言ったり書いたりしているのでご存じのかたも多いだろうが、偏差値を正答率基準に置き換えて考えることだ。
大手の模試や月例テストには必ず一問ごとに正答率が公表されているから、「正答率70%の問題に必ず正答する」などという目標を設定する。それが達成できるようになったら次第に、正答率が低い問題も完全正解が出せるよう、時間をかけてバーを上げていくのだ。そうすればアリ地獄に落ちず、手の届く目標ができるので意欲的に問題に取り組めるようになる。そうなると偏差値に翻弄されず、問題解決に正面から取り組める。だからテストは、結果を利用することこそが大事なのだ。

プロフィール


森上展安

森上教育研究所(昭和63年(1988年)に設立した民間の教育研究所)代表。中学受験の保護者向けに著名講師による講演会「わが子が伸びる親の『技』研究会」をほぼ毎週主催。

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