AI時代に輝く子どもの育て方 第3回「子どもの『好き』を見つけるために、保護者は何ができるのか?」 世界トップティーチャーの回答は?
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デジタル技術の発達や多様性の尊重など社会の在り方が大きく変わる中、これまでの子育てとは異なる考え方が求められるのかもしれません。立命館小学校の正頭英和先生は、2019年、「教育界のノーベル賞」といわれる「グローバル・ティーチャー賞(Global Teacher Prize)」の世界トップ10ファイナリストに選ばれ、AI時代の教育をテーマとした講演活動にも力を注がれています。シリーズ最終回では、保護者のかたと子どもがともに幸せに楽しく生きるためのメッセージをいただきました。
正頭英和先生 立命館小学校 主幹教諭
聞き手 加藤由美子 ベネッセ教育総合研究所 主席研究員
人・本・非日常との3つの出会いが人間的な魅力を高める
加藤 このシリーズで、これまでもお話いただきましたが、AIやロボットが人間の代わりに仕事をするようになっていく社会を生きる子どもを育てるうえで、何が大切だとお考えですか。
正頭先生 AIやロボットにはない人間的な魅力を持った人になっていくことで、自分らしく幸せに生きていくことができると思います。そのためには3つの出会いが必要だと思っています。
1つめは、人との出会いです。人は、人と出会うことで変わり続けられます。保護者のかたや学校の先生だけではなく、さまざまな大人に出会う機会をつくると、子どもは大きな刺激を受けるでしょう。このシリーズの第1回でも触れましたが、英語学習の意義の1つは人との出会いの体験を増やせることです。文化や価値観の異なる外国人との交流を通じて、子どもは多くの学びを得るに違いありません。
2つめは、本との出会いです。直接会うことが難しい人でも、その人の知恵や経験のエッセンスが詰まった本を読めば、多くを学び取ることができます。保護者のかた自身が本を読み、子どもがその姿に触れることが、子どもを本好きにする秘訣だと思います。
3つめは、非日常との出会いです。家族や学校から離れて、普段とは異なる非日常体験をすることで、子どもの興味・関心は広がり、好奇心が高まります。旅行が代表的な非日常体験の場ですが、日常の中に非日常をつくり出すこともできます。たとえば、いつも行くスーパーマーケットとは違う場所に買い物に出かけるだけでも、子どもにとっては非日常の刺激的な体験となるでしょう。
子どもの興味・関心は「調べたい」「作りたい」「試したい」気持ちで広がる
加藤 子どもとの日々の会話や接し方で、保護者のかたが気を付けるとよいことはありますか。
正頭先生 子どもが疑問を抱いた時、保護者の態度によって興味・関心の広がり方は大きく違います。子どもからの質問に対してすぐに答えを教えてしまうと、子どもの考えはそれ以上深まりません。「やってみたい」という気持ちを刺激することが大切です。子どもの興味・関心は「調べたい」「作りたい」「試したい」の3つに集約されると考えます。子どもの疑問に合わせて、これらの3つのどれかをやってみるよう促してみてください。たとえば、わからないことは、図鑑や百科事典で調べるように促します。そうするとそこから子どもは別のことへの興味・関心を広げます。そこから新たな疑問や好奇心を抱いて世の中を見るようになります。いつもでなくてもよいので、できれば保護者のかたも一緒にやってみていただくと、子どもは一層楽しく体験できるでしょう。
子どもの性格は体験や環境によって変化する
加藤 「うちの子は恥ずかしがり屋で……」と、お子さまの性格を気にしている保護者のかたもいらっしゃいますが、どうしたらよいでしょうか。
正頭先生 子どもの性格に引っ張られ過ぎて、保護者のかたまで消極的になるのは好ましくないと思います。恥ずかしがるプロセスも大切です。子どもが何かを表現するためには、体験を土台として、いくつかのステップを経る必要があると、私は考えています。まず体験を通して何かを感じると、そこから考えが広がっていきます。そして、考えたことの中からことばとして内容が表現されるのです。このステップを踏まえると、体験をしたり、考えたりしたこと以上の表現をすることはできません。子どもが意欲的に表現するようになるには、体験をたくさんできるようにし、体験をもとに感じたり、考えたりする力を伸ばすほうが先だと考えます。そのようにして、土台をしっかりと築くサポートをすると、子どもの表現は、次第に豊かになり、性格が変わっていくこともあるでしょう。
*体験から表現へのステップイメージ(正頭先生作成)
チャレンジ・没頭・継続の3ステップで、子どもの好きなこと・やりたいことを見つける
加藤 子どもの好きなこと・やりたいことがわからないという保護者のかたはどうしたらよいでしょうか。
正頭先生 保護者のかたには、「勉強を好きになってほしい」「このスポーツに熱中してほしい」など、我が子へのさまざまな願いがあると思います。しかし、実際のところ、子どもの好きをコントロールすることはできません。巷には、「こうしたら勉強が好きになった」といった実践例があふれていますが、ある人が何かを好きになったのと同じように、ほかの人も好きになることはほとんどないように思います。目の前のことにチャレンジし、それに没頭し、気が付けば継続していた、好きになっていたということが多いのではないでしょうか。その一方で、嫌いになることにはパターンがあると思います。その典型は、あれこれと押し付けられて嫌になるものです。子どもが夢中になれることを見つけるために大人ができるのは、選択肢を押し付けるのではなく、多くのチャレンジの選択肢を与えて、あとは嫌いにさせる接し方をしないということくらいだと考えます。
毎日大勢の子どもと接する中で感じているのは、子育ては本当に難しく、そこに答えはないのだろうということです。もし答えがあるのだとしても、それは子どもによって異なるはずで、おそらく保護者のかたしか見つけられないのではないかと思います。ですから、ほかの人の意見は、参考程度に聞くのがちょうどよいのかもしれません。決して、「あの人の言うとおりにできていない」などと、プレッシャーを感じてほしくないと思います。
子育てに真摯に向き合っていると、ややもすると、「我が子がすべて」と思ってしまう場合があります。しかし、子どもに愛情を注ぐことと、自分のすべての時間を子どものために費やすことは、イコールではありません。保護者のかたが肩の力を抜いて笑顔で過ごすためにも、家庭以外のコミュニティーに積極的に参加することを考えてみてください。保護者のかたが新しいチャレンジをして変化をし続けると、子どもは常に新しい保護者のかたに出会うことができ、学び続けることの大切さもきっと伝わるでしょう。
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