今、《女子×理系》が注目を集める理由とは?「見えない壁」を乗り越えるために必要なこと
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ここ数年、「女子×理系」のキーワードが注目を集めています。理工系学部の「女子枠」を設置する国公立大学は増え、産業界でも理工系女性従業員の採用拡大を表明する企業が増えています。
なぜ今、「女子×理系」が注目を集めているのでしょうか? 女子生徒の理系選択における実情と課題について、有識者にうかがいました。
※本記事は、2024年10月に行われたオンラインイベント「今、『女子×理系』が注目を集める背景とは?〜データや生の声から見る理系選択の実態と課題〜」(主催:公益財団法人山田進太郎D&I財団 協力:ベネッセ教育総合研究所)の内容を編集したものです。
(イベントモデレーター:ベネッセ教育総合研究所 小村俊平氏)
なぜ日本は「理系女子」が少ないのか
2025年度の理工系学部の「女子枠」を設置する国公立大学は昨年度より倍増し、30大学37学部となりました。ここ数年は、奈良女子大学、お茶の水女子大学などの女子大でも、工学部を新設しています。
日本の15歳の女子の数学的リテラシーは、世界第2位を誇ります(OECD調査)。その一方で、理工系分野の高等教育機関の入学者に占める女性の割合は、OECD加盟国のうち日本が最低。学力はあっても理工系の進路を選択しない、という現状があるようです。
女子の数学の成績はトップレベル(グラフ赤が日本のスコア) *OECD, Mathematics performance (PISA) Girls, Mean score, 2018 より編集室作成)
小学校4年生から高校3年生まで、約2万人の親子を対象に10年にわたって実施された大規模調査(東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所の共同研究)によると、「あなたは自分のことを『文系』だと思いますか、それとも『理系』だと思いますか」という問いに対して「理系」を選ぶ女子は、どの学年でも男子より20%程度少ないという結果となりました。
なぜ、日本では理工系学部を選ぶ女子が少ないのでしょうか。ベネッセ教育総合研究所の松本留奈氏は、次のように指摘します。
「日本ではかねてから、理工系の職業は男性向きであるというイメージを持たれがちで、そのような仕事への入り口となる理工系の学習も、女子がなかなか興味関心を持ちにくい土壌があったのではないでしょうか」
さらに、「STEM系(理系)女子奨学助成金」を設置し女子生徒の理系進学を支援する、山田進太郎D&I財団の事務局長・田中多恵氏はこう続けます。
「女子はサイエンスリテラシーがあるにもかかわらず、理工系科目に対する苦手意識が根強いことに加え、医療系以外で活躍できるイメージやロールモデルが不足しています。『地元に残ってほしい』『女性には向いていない』『学費が高い』など保護者が持つジェンダーに関連したバイアスや思いも、女子特有のハードルとして立ちはだかっているようです」
これからの社会に欠かせない視点
先進的なSTEAM教育を実践している千代田国際中学校・武蔵野大学附属千代田高等学院校長の木村健太氏は、生徒たちへの願いを次のように話しました。
「進路について、男子だから女子だからと意識する必要はありません。男女ともに、自分で調べ、自分で感じ、自分で考え、自分で決めることが重要です。そのうえで、経済的なことも含めて保護者とよく話し合って決めてほしい。そうすることで、本人の自己肯定感や自己効力感の向上にもつながります」
木村氏は、テストの点数だけで苦手な分野や得意な分野を決めてしまうことにも警鐘を鳴らしています。文系理系という明確な区分けは日本特有であり、また、大学院や卒業後は文理の壁を越えた知識や思考が必要になるからです。
自然科学研究機構(国立天文台など国立の研究機関を束ねる機構)に所属する小泉周氏も、女性の視点がこれからの社会に欠かせないと強調しました。
「科学の世界は今まで男性による男性のための研究をしてきました。世界ではそのことに対する反省が始まっています。これは、ジェンダード・イノベーションといって、性差やジェンダーに配慮した科学技術を促進し、すべての人の生活の質を向上させるという考え方です」
バイアスを無意識に受け入れる前のSTEM体験を
理工系をめざす女子の不安は多岐にわたります。その一つに、理工系学部への進学は、将来の職業が限定されるイメージが強いことがたびたび指摘されます。
この意見に関して田中氏は、「たとえば海外で働く近道は英語を身に付けることだけではなく、理系での学びがエンジニアとしての国際協力も可能にし、むしろ選択肢が広がるのでは」と答えます。
また、理工系に進学して友達ができるか、出産して両立できるかなどの質問も多いようです。背景には、「自身がマイノリティとなる環境で生活することへの不安」が見え隠れしています。
田中氏は、社会のバイアスを無意識に受け入れてしまう前に、小学校や中学校など早期から、自分が好きなこと、夢中になれることを見つける体験が必要だと言います。
「イギリスやドイツでは、女の子がSTEM分野で楽しんで取り組めるクラブ活動やアクティビティがたくさんあります。理系、文系という分け方ではなく、STEM(科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、数学(Mathematics)を分野横断的に学ぶ)という枠組みの中で楽しめるアクティビティです。そのような体験を私たちとしても届けていきたいと考えています」
多くの人が自由な発想と情熱を持って活躍できる社会を実現するには、まずはさまざまなバイアスの存在に気付く必要があります。子どもたちの興味関心を尊重しながら、大人自身も価値観をアップデートしていくことが、取り組みの第一歩なのかもしれません。
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