「子どもの話を聴く」のは意外と難しい? 保護者にできることは?【子どものウェルビーイングを考える】
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昨今社会的なテーマになりつつある、ウェルビーイング(=ココロも、カラダも、社会的にもよい状態のこと)。子どものウェルビーイングについて、家庭や学校、地域でどう考えることができるのでしょうか。「世界こどもの日(11月20日)」を契機に、3人の識者が意見を交わしました。
※本記事は、2024年11月に行われたオンラインフォーラム「こどものウェルビーイングを考えよう、11/20は世界こどもの日」(主催:ベネッセウェルビーイングLab)の内容を抜粋・編集したものです。
調査から見えてくる、日本の子どものウェルビーイング向上のカギ
はじめに、ウェルビーイングを第一線で研究している石川善樹氏(Well-being for Planet Earth代表理事)は、ウェルビーイングは現在の日本の教育振興基本計画における重要なコンセプトであることに触れ、こう切り出します。
[ 石川氏の話(要約)]
ある国際調査(※1)によると、15歳までの子どもの主観的ウェルビーイング(生活満足度)に影響する要因のランキングで最も高いのは「親との関係性」であることがわかっています。
しかし、同じくこの調査では、日本の子どもは「学校への所属感」が高い一方、「家族からのサポート」を多いと感じている割合は調査対象国のうち最下位でした。このことから、日本の子どものウェルビーイングを高めるには、家族との関係性が大きなカギを握っているといえます。
また、大人の目線でも、気になるデータがあります。内閣府が60年以上続けている世論調査(※2)では、18歳以上の人に「あなたのご家庭の生活は、これから先、どうなっていくと思いますか」を尋ねています。
石川氏登壇資料より
1968年は40%近くが「よくなる」と答えましたが、以降は低下傾向が続き、21世紀に入ったころからは8%前後での推移。なんと9割以上の人が、家庭の今後について、前向きな希望を持てていないということになります。
子どものウェルビーイングを支える「家庭」や「家族」。子どもと保護者の双方が、ここに希望を持つには、どうすればよいのでしょうか。
2024年の「世界こどもの日」のテーマは《未来の声を聞こう》ですが、このテーマのとおり、はじめの一歩は、相手を尊重して最後まで話を聴くことだと考えています。日常生活では、相手に行動を指示したり、求めたりするシーンは少なくないでしょう。しかし、子どもや家庭の未来に希望を持つためには、まずは家族の話に耳を傾けることが重要ではないでしょうか。
「声を聴く=言いなりになる」ではない
石川氏の話を受けて、子どもの居場所づくりに取り組む平岩国泰氏(放課後NPOアフタースクール代表理事)が、「子どもの声を聴く」ことの大切さとその方法について、実践を交えて語りました。
[ 平岩氏の話(要約)]
私が運営するアフタースクールでは、当初、子ども同士のトラブルがよくありました。その状況を変えるため、「子どもの声を聴く」ことを方針に掲げ、取り組みを進めました。
ただし、「子どもの声を聴く」といっても、それは「子どもの言いなりになる」ということではありません。「子どもと大人でともにつくる」ことが重要なのです。
具体的には、ルールづくりを子どもたち自身で行ったり、季節ごとのイベントの企画や運営を子どもに委ねたりといった工夫です。その中で、大人は伴走者役に徹して関わるようにしました。
すると、次第に子どもは自分から意見を言うようになり、子どもと大人のスタッフが一緒につくるスクールへと変化。子どもは自分の声を聞いてもらえることで自己肯定感が高まり、友達の声を大切にする光景もよく見られるようになりました。
この事例からは、次の画像のようなことがいえるでしょう。決して難しいことではなく、まずはライトなことから始めてみるのがよいかもしれません。
平岩氏登壇資料より
話を直接聴くことにこだわらなくてもよい
「子どもの声を聴く」際には、どんなことを心がければよいのでしょうか。参加者からの質問に答える形で、石川氏、平岩氏、豊泉桂子氏(ベネッセウェルビーイングLab 所長)がさらに意見を交わしました。
(写真 右上:石川氏 左下:豊泉氏 右下:平岩氏)
平岩氏 「子どもの声を聴く」といっても、幼児や小学生は言語化がまだ十分にできませんし、中学生・高校生は思春期や反抗期を迎えて、大人とあまり話したがらない子もいると思います。保護者はどうするのがよいでしょうか?
豊泉氏 スキンシップは、「子どもの声を聴く」ために効果的な方法だと思います。大人は子どもを抱き締めた時の反応で子どもの気持ちを感じ取れますし、子どもは自分の体の動きで気持ちを表現できます。年齢的に抱き締めることに抵抗があるなら、手を握ったり、体をくっつけて寄り添ったりするだけでも、気持ちを感じ取れるのではないでしょうか。
もし子ども自身が思いを言葉にするのが難しいのであれば、「今の気持ちは何色?」と聞いてみるなど、非言語の表現方法を試してみるのもよいと思います。
石川氏 直接話すことにこだわらず、間接的に声を聴くことも有効です。子どもは自分の居心地がよい場所で本音を語りやすいので、子どもを見守る先生やスタッフから間接的に子どもの思いを聴くことができます。なかには、二度と会わない人が集まる一回限りの場のほうが、本音を言いやすい子どももいます。声を聴けそうな場を、さまざまに探してみるとよいでしょう。
考えや意見が違うからこそ、対話が必要
平岩氏 子どもの自己肯定感を高めるためには、どのようなことが大切でしょうか。
豊泉氏 私の原体験ですが、小学生の時、担任の先生から「はきはきと挨拶(あいさつ)をする」「伸び伸びとした字を書く」とほめられて大きな自信になりました。勉強とは別のことをほめられたのがうれしく、今も覚えているほど心の支えになっています。そのように、子どものよさを上手に見つけて伝えることが大事だと思います。
石川氏 自分に似ている人がいきいきとしている姿を見ると、「自分にもできそう」と自信が高まりますよね。家庭や学校のほかにも居場所があると、自分と似た人を見つけやすく、結果的に自己肯定感が高まりそうです。
平岩氏 保護者が楽しそうに過ごす姿を見せることも大切ですね。では、保護者や学校の先生など、大人同士の考え方が合わない場合の対処法については、どう思われますか?
豊泉氏 平岩さんのアフタースクールでは、子どもが話し合ってルールを決めていますよね。これは大切な平和教育だと思います。考えや意見が違うからこそ対話が必要であることを、大人も改めて学ぶべきではないでしょうか。
石川氏 日本では、意見が異なっても、あいまいなまま終わらせる文化があるように感じます。でも、それは一概に悪いとは言えず、無理に結論を出さずに脇に置いておくという考え方があってもよいのかなと思います。
平岩氏 確かに、少し時間を置くと解決方法が見つかる場合もありますよね。ただ、結論は出さないとしても話し合うことは大事だと思います。特に家庭では、家族の価値観などを言語化する努力をすると、わかり合える機会をより増やすことができるのではないでしょうか。
(以上)
※1 出典:OCED PISA 2022より
※2 出典:内閣府「国民生活に関する世論調査」より
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