西本喜美子写真展から広がる創作写真。子どもたちが表現したものとは【直島アート便り】
- 教育動向
2022年に開催された瀬戸内国際芸術祭にて、香川県の豊島(てしま)では「西本喜美子写真展~ひとりじゃなかよ~」が公開されました。この写真展をきっかけに、豊島小学校・中学校の児童・生徒たちは身近なものを使った写真作品を制作しました。豊島の子どもたちは写真をとおしてどのような表現をしたのでしょうか。
豊島で開催された西本喜美子写真展とは
熊本に暮らす西本喜美子さんは、90歳を超えた今もなお、新しいチャレンジをする現役の写真家です。カメラを始めたのは、72歳の時に長男の和民さんが主宰する写真講座「遊美塾」に参加したことがきっかけでした。
表情豊かなセルフポートレートやパソコンの編集ソフトを駆使した写真で注目を集め、2022年には瀬戸内海の島々を舞台に3年に1度行われている瀬戸内国際芸術祭にて、自身のフォトエッセー集をもとに展示構成した「西本喜美子写真展~ひとりじゃなかよ~」が公開されました。
展示の様子
豊島にある古民家に、ユーモアあふれるセルフポートレートや自然をモチーフにした温かみのある写真が展示され、会期中は9,000名を超える来場者で賑わいました。2022年10月には、豊島島民を対象とした西本喜美子さんと和民さんによるトークショーが行われました。
トークショーで西本喜美子さんはカメラの楽しみについて語った
参加者からは「元気をもらえた」「年齢に関係なくいろいろなことにチャレンジしていきたい」といった声が寄せられました。
このトークショーの中で、西本和民さんから「島のかたで写真展をしませんか」とのご提案があり、その場で豊島島民による写真展を開催することが決まりました。この写真展の開催決定を機に、島のかたの中でカメラを楽しむ様子が見られ始めました。
対話を通じて写真の楽しさに触れる
2022年11月、豊島小学校の1~5年生が「西本喜美子写真展~ひとりじゃなかよ~」を訪れました。児童たちは会場に到着すると「すごいことしている人がいる!」と西本喜美子さんの写真を驚きの目で見つめます。
展示を鑑賞する児童たち
児童たちは、ファシリテーターの問いかけをヒントに、写真のどこに着目し、何を考えたのかを自分の言葉で話しながら鑑賞します。「ジャンプしている写真は楽しい雰囲気がする」「背景の影まで工夫されている」など、さまざまな感想や気付きが共有されました。
作品鑑賞後、今度は自分自身で写真作品の制作に取り組みます。児童たちは「みんなで写真動物園をつくろう」をテーマに、家屋内や庭にあるものを動物に見立てて撮影を試みます。
木の枝や葉っぱを組み合わせて木に隠れるサルを表現
家屋内でフジツボに似た壁のヒビ割れを見つける児童や、葉っぱを並べてカマキリやヘビに見えるよう試行錯誤する児童など、写真作品の制作プロセスにおいてそれぞれの工夫が見られました。
撮影後、児童たちは一人ずつ自分が制作した写真作品を発表しました。個性豊かなアイデアにお互い刺激を受けている様子がありました。
それぞれの写真作品を発表する様子
写真がモノの見方を変える
2023年1月、豊島小学校6年生と豊島中学校1~3年生が学校内で写真ワークに取り組みました。児童・生徒たちは、西本喜美子さんの写真は目の前にあるものをただ撮影する記録写真ではなく、自身のアイデアによって撮影された創作写真であることを知ったうえで、学校にあるものを他のものに例えて写真作品を制作します。
バスケットゴールとボールを組み合わせて顔に見立てている
バドミントンのシャトルと卓球のボールで花を表現
体育館にあるものを使ったり、普段通り過ぎていた校内の一部分を切り取ってみたりなど、さまざまな素材を使いながら試行錯誤をしている様子があり、1人で複数の写真作品を制作している児童・生徒もいました。また、他の児童・生徒や先生と協力しながら作品制作に励み、写真を通じたコミュニケーションも生まれていました。
写真作品の制作がもたらすもの
2023年3月、トークショーをきっかけに決まった豊島島民による写真展が開催されました。島内で公募した写真作品だけでなく、豊島小学校・中学校の児童・生徒たちがワークで制作した写真作品も展示されます。
小学生の作品
中学生の作品
今回、豊島の子どもたちは、作家の作品制作を追体験したことで、これまでにない視点を持って周囲の環境を見つめ直すことになったのではないでしょうか。また、制作した作品をみんなで鑑賞することで、さらに新しい発見をしている様子もありました。
身近なものを使って写真作品を制作し、発表まで経験することは、豊かな発想力を育むとともに、自分らしさに気付くことにもつながるかもしれません。
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