草間彌生の「南瓜(かぼちゃ)」は、なぜ直島のあの場所に置かれたのか【直島アート便り】

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1994年9月15日、Out of Bounds展のオープニングレセプションに訪れた草間彌生氏と「南瓜」(1994年)

今では直島を代表する作品の1つとして、多くの人から愛されている「南瓜」。本作は1994年に開催された「Open Air "94 "Out of Bounds" —海景の中の現代美術展—」で公開されました。黒いドットをまとった黄色い「南瓜」は、美しい瀬戸内の自然と拮抗し、独特の存在感を放っています。
今回は、ここにしかない風景を見せ続けている「南瓜」が、この場所に置かれることになった経緯についてご紹介します。

「無名の場所」を「特別な場所」へ作り替えていく試み

「ベネッセアートサイト直島」は1980年代以降、直島、豊島、犬島を舞台に、瀬戸内海の自然や地域固有の文化の中に、現代アートや建築を置くことによって、どこにもない特別な場所を生み出していくことを目指して活動しています。

1992 年に開館したベネッセハウスは、「人・自然・芸術」をキーワードに、現代美術の企画展を開催していました。常設展で館内が充実し始めた頃に企画された「Out of Bounds 展」では、初めて館外の「自然」を生かすことが意識され、当時国内では珍しかった野外展が実施されました。

この展覧会のためにつくられた作品を、壁に囲まれた美術館のなかに置くのではなく、周囲の自然と調和または拮抗するかたちで置くことに挑戦した企画展でした。「Out of Bounds」という展覧会名には「既存の概念、制度、枠組みなどの境界を越えて、多種多様な価値観と出合う」という企画意図が込められています。そこで、20 名のアーティストを直島に招待して作品プランを考えてもらい、周囲の環境との関係が十分に考慮された11組の作品(※1)を選出しました。このうち、特に「海景」というテーマと結びつきが強い4 作品(※2)は、現在も当時と同じ場所に展示されています。

この「Out of Bounds 展」以降、ベネッセアートサイト直島は、作品制作においてサイト・スペシフィック(※3)性を重視するようになり、「家プロジェクト」をはじめとする、唯一無二の活動へとつながっていきました。

(※1)大竹伸朗、岡﨑乾二郎、片瀬和夫、草間彌生、小山穂太郎、杉本博司、テクノクラート、中野渡尉隆、PH スタジオ、枀の木タクヤ、村上隆

(※2)大竹伸朗「シップヤード・ワークス」、片瀬和夫「茶のめ」、草間彌生「南瓜」、杉本博司「Time Exposed」

(※3) 特定の場所に属する作品や置かれる場所の特性を生かした作品、その性質や方法、経過のこと

草間彌生「南瓜」1994年

どこにでもある瀬戸内の風景を、特別な風景に変えた「南瓜」

草間彌生は、1950 年代からドットや網の目といった無限に増殖するパターンを、絵画、立体、インスタレーションといったさまざまな形式で表現してきました。

なかでも「南瓜」は、さまざまなバリエーションで制作されてきました。直島の「南瓜」がそれまでと異なるのは、場所の特徴を強く意識してつくられたことです。海の青や木々の緑に囲まれた風景のなか、黄色に彩色された「南瓜」は一際目をひきます。それと同時に、瀬戸内の自然を背にしながら、「ここにしかない風景」をつくり出しています。

25年以上ずっと同じ場所に作品があることは、現代のようにすべてが流動化した時代において、変わらないもの・変わりゆくものを意識化させる装置であるといえるかもしれません。

しかしなぜ、「南瓜」はこの場所に置かれることになったのでしょうか。当時の資料を紐解くと「水に浮いているような唐突感を出したい」「できるだけ突端の部分に作品を置いてみたい」という狙いで、設置場所の検討が重ねられたことがわかります。別の候補地では、作品の固定方法が難しく、波にさらわれることが懸念されたことから、最終的に、現在と同じ、海に突き出た古い突堤に設置されることになりました。

こうした大胆な発想の転換は、「作品を自然のなかに置く」という難しい条件の下で、理想と現実のギャップを埋めるべく議論を重ね、試行錯誤するなかで生み出されました。「在るものを活かし、無いものを創る」というコンセプトを大事にしながら、既成概念に囚われることなく、挑戦を続けてきたベネッセアートサイト直島。この場所で、四季折々の自然とアートをゆったりと眺める時間を過ごしてみませんか。

プロフィール



「ベネッセアートサイト直島」は、直島、豊島、犬島などを舞台に、株式会社ベネッセホールディングスと公益財団法人 福武財団が展開しているアート活動の総称です。訪れてくださる方が、各島でのアート作品との出合い、日本の原風景ともいえる瀬戸内の風景や地域の人々との触れ合いを通して、ベネッセグループの企業理念である「ベネッセ=よく生きる」とは何かについて考えてくださることを願っています。
https://benesse-artsite.jp/

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