人々の記憶が蓄積され続ける場所—豊島のクリスチャン・ボルタンスキーの作品とは【直島アート便り】

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フランスを代表するアーティスト、クリスチャン・ボルタンスキーは、これまでに人間の「生と死」「記憶」をテーマにした作品を制作してきました。瀬戸内海に浮かぶ豊島(てしま)には、ボルタンスキーの恒久展示作品が2つ公開されています。今回は、豊島にあるボルタンスキーの作品について紹介します。

この記事のポイント

ボルタンスキーと豊島の出会い

1944年にパリで生まれたクリスチャン・ボルタンスキーは、映像、写真、絵画、彫刻、マルチメディアインスタレーションなど、多彩な表現方法で人間の「生と死」について考える作品を発表し続けてきました。家族の写真やビスケット缶、古着などといった日常的な素材を組み合わせることによって、自己あるいは他者の「記憶」を呼び起こします。

ボルタンスキーと豊島との関係は、2010年の瀬戸内国際芸術祭への作品参加に始まります。瀬戸内国際芸術祭は、3年に1度、瀬戸内海の島々を舞台に開催される現代アートの祭典です。ボルタンスキーは、2010年に「心臓音のアーカイブ」、2016年に「ささやきの森」を豊島にて公開します。いずれの作品もボルタンスキー自身が何度も豊島に通う中で、島民にとって大事な場所を観点に作品の設置場所を決めました。

人々の生きた証を保存する「心臓音のアーカイブ」

2010年に開館した「心臓音のアーカイブ」は、島民に大切にされている唐櫃八幡神社の境内の一角にある王子ヶ浜という浜辺にあります。王子ヶ浜は豊島の北東の端にあり、唐櫃港から歩いて15分ほどかかります。あえて港から離れた場所に作品を設置することで、ボルタンスキーは「巡礼」のイメージに重ねたといいます。作品にたどり着くまでの長い道のりの中で生まれる思索の時間が重要だと考えたのです。

クリスチャン・ボルタンスキー「心臓音のアーカイブ」
写真:久家靖秀

「心臓音のアーカイブ」では、世界中で集めた人々の心臓音を恒久的に保存し、それらの心臓音を聴くことができる小さな美術館です。ボルタンスキーは、人々が生きた証として、心臓音を収集するプロジェクトを2008年から展開しています。

クリスチャン・ボルタンスキー「心臓音のアーカイブ」
写真:久家靖秀

「心臓音のアーカイブ」におさめられている心臓音を聴くと、一人ひとりの心臓音が異なることを感じるでしょう。

また、「心臓音のアーカイブ」では、自分の心臓音を録音することもできます。豊島への旅の記念に録音するかた、お子さまの成長記録として録音するかた、自分が生きていることを実感したいと願って録音するかたなど、心臓音とともにさまざまなかたの思いも残されています。

心臓音を登録する様子

森の中で大切な人への思いが響き合う「ささやきの森」

2016年に開館した「ささやきの森」は、豊島の中央に位置する檀山の中腹にある森にあります。檀山は豊かな湧き水をもたらす、島民がとても大事にしている場所です。

ボルタンスキーは、「ささやきの森」までの山道を自分の足で上がることを重要だと考えています。森の声や蝉の声を聴くなど、森の中に自分の身を置く、作品鑑賞をするまでの準備が大切だといいます。

「ささやきの森」は、森の中で無数の風鈴が風に揺れ動き、静かに音を奏でるインスタレーションです。風鈴の短冊には、訪れた方々の大切な人の名前が記されています。

天候によって作品の見え方が異なる

家族で名前を書きあうかた、かけがえのない友人の名前を書くかた、お世話になった恩師の名前を書くかたなど、それぞれの誰かへの思いが短冊の名前に込められています。

2022年現在は、「心臓音のアーカイブ」にて新たに自分の大切な人の名前を残すことができます。ボルタンスキーは、この作品は終わりのない作品であり、やがて自分自身の名前が忘れ去られたあとも、人々が大切な人を敬うために訪れる巡礼の地になることを願っています。

人々の記憶をたどる巡礼の旅

ボルタンスキーは、豊島の2つの作品の共通点を「訪れる人々と関係を持つことができる作品」と語っています。これまでに訪れた人々の生きた証や思いに触れることで、また訪れた人々の中でも新たな「記憶」として残り続けていくことでしょう。

豊島の自然に身を置き、さまざまな人々の記憶をたどる巡礼の旅へ出かけてみませんか。

「心臓音のアーカイブ」のリスニングルームで心臓音を聴く様子

プロフィール



「ベネッセアートサイト直島」は、直島、豊島、犬島などを舞台に、株式会社ベネッセホールディングスと公益財団法人 福武財団が展開しているアート活動の総称です。訪れてくださる方が、各島でのアート作品との出合い、日本の原風景ともいえる瀬戸内の風景や地域の人々との触れ合いを通して、ベネッセグループの企業理念である「ベネッセ=よく生きる」とは何かについて考えてくださることを願っています。
https://benesse-artsite.jp/

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