子どもは大人より現実を知っている。SDGsのよくある勘違いトップ3を竹下隆一郎さんに聞いた

「SDGs(エスディージーズ)ってよく聞くけど、実際どういうことかよくわからない」と答える人を、テレビの街頭インタビューで見たことがあります。

企業が取り組みをPRすることも増え、小中学校でも授業に登場するSDGs。『SDGsがひらくビジネス新時代』(ちくま新書)を発売した竹下隆一郎さんによると、子どもよりも大人のほうがSDGsについて勘違いしていることが多いそう。どんなことでしょうか。

この記事のポイント

勘違い①:SDGsは子どもには難しい ×

──「子どもの調べ学習でSDGsについて聞かれて困った」と保護者から聞くことも増えました。

竹下隆一郎さん(以下竹下):持続可能な開発目標であるSDGsが2015年に国連で採択されて、教育現場でもさまざまな取り組みが行われるようになりましたね。2020年の中学入試問題にも200題以上登場*しています。

──中学入試に扱う題材としては少し難しい気がします。

竹下:SDGsに関する教育が行われるようになったのは近年のことなので、そもそも大人は教育を受けていません。SDGsに関しては逆転現象が起きていて、大人のほうが、子どもより知識が少なくて当たり前なんです。

子どもたちのほうが大人より知識があって、その子どもたちはさらに知識を深めていくテーマ。逆に子どもたちから教えてもらう意識をもつことが大事だと思います。

──確かに、大人がSDGsについて学ぶ機会は少ないかもしれません。

そもそも大人たちが多くの問題を先送りにしてきたことで、今の地球環境の悪化やジェンダー不平等があります。大人たちに責任があるけれども解決策がわからないことを認めて、一緒に学んでいけばいいんじゃないでしょうか。

勘違い②:SDGsとは、環境保護のために我慢すること ×

──「紙ストロー」「レジ袋有料化」などへの不満もSNSでよく見ます。我慢しなくてはいけないのかなとも思いますが…。

竹下:日本でSDGsは「我慢すること」のイメージが強いですね。でも、ヨーロッパを中心にSDGsは「豊かになるため」と言われることも多いんです。

──“豊かになる”とはどういうことでしょう。

竹下:例えば“プラスチックのストローを使うのはやめましょう”という意見があれば、「不便だ」という反対意見も当然出てきます。でも「そもそもストローは必要なのか」「コップの形を飲みやすくするのはどうだろう」とアイデアを出し合うこともできるわけです。

植物を使った「草ストロー」のブランドを立ち上げた大学生もいます。“脱プラスチック”という課題のために新しい製品が生まれて世の中が楽しく豊かになったり、新しいビジネスが生まれたりすることも実際に起きています。

環境保護がクローズアップされることが多いですが、SDGsには「飢餓をゼロに」「質の高い教育をみんなに」などさまざまな目標があります。目標8に「働きがいも経済成長も」があるように、経済活動を諦めるものではないんです。

勘違い③:SDGsと経済成長は両立しない ×

──経済の発展は無理かと思っていました。とはいえ取り組む余裕がない会社もあると思いますが。

竹下:実際そう考えている会社もあるとは思います。でも「環境問題に取り組み、差別をしない企業が新しいビジネスを生み、経済成長につながる」と考えるほうが世界の主流になりつつあります。何もしない会社は投資を受けにくく、さらに余裕がなくなってしまいます。

Z世代と呼ばれる今10代、20代の人と話すと、感覚が大きく変わってきているなと感じます。少子高齢化で世代人数も減っているので、誰かを蹴落として自分だけうまくやろうではなく、チームとして生き残らないと社会も地球ももたないという危機意識をもった人が増えています。今の子どもたちも含めて、これから社会に出てくるのはSDGsを学んだ人たち。マインドを変えられない会社はいい人材を採用できません。

──上の世代からは理解されず、「理想論」「格好だけ」と言われることもありますよね。

竹下:SDGsをやっているふりだけの場合は問題がありますが、良い意味で「格好つけている」会社じゃないともうからなくなっていると思います。スターバックスは日本でも影響力が大きいグローバルチェーンですが、ストロー不要のふたに切り替えたり紙ストローを採用したりしていますよね。そうなると、スターバックスに家具を納品する会社も環境問題を意識しないわけにはいきません。

次の世代のために。メガネをちょっと変えてみよう

──大人は「現実的に」考えているつもりでも、もう現実のほうが変化しているんですね。つい、これまでの常識で考えてしまっているかもしれません。

竹下:考え方を変えるのは大変なことだし、忙しい毎日でSDGsのことまで考えにくいのもよくわかります。でも、これは次の世代が生きるために皆で取り組まなくてはいけないことです。

──経済といった大きな規模ではなく、個人レベルでもできることはありますか?

竹下:経済と個人、両方の力が必要だと思います。今はSNSの時代なので、消費者として個人の存在感も大きくなっていますよね。商品を選んで感想を投稿すること、興味があることを検索することだけでも意味があります。「環境」という言葉が、検索されればされるほど、いまのネットの仕組みだと、それが流行ワードになります。企業は、ネットの流行もチェックしていますから。もちろん選挙に行くことも大切です。

Allbirds(オールバーズ)というブランドではスニーカーの材料にユーカリやサトウキビを使っていますし、大豆ミートも人気の食材になりました。もちろんそれぞれ、本当に環境に良いことなのか、たえずチェックが必要ですが、いろいろな選択肢があり、子どもたちはこれからの世界を見ていることを知って、ちょっとメガネを変えてみたらいいのかなと思います。

まとめ & 実践 TIPS

「一人の力では意味がない」「現実的に」と考えている大人より、子どもたちは先を見ているかもしれません。未来のために、子どもと一緒にSDGsについて話してみませんか。

*『SDGs 国連 世界の未来を変えるための17の目標 改訂新版』(みくに出版)より

編集/磯本美穂 執筆/樋口かおる

『SDGsがひらくビジネス新時代』
(竹下隆一郎著、筑摩書房刊)

参考:
HAYAMIの草ストロー
https://www.hayamigrassstraw.com/

Allbirds
https://allbirds.jp/

プロフィール

竹下隆一郎

PIVOT執行役員、チーフSDGsエディター。1979年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2002年に朝日新聞社に入社。民間企業や経済官庁を取材する経済部記者、デジタルメディアの新規事業を担う「メディアラボ」を経て、2014〜15年にスタンフォード大学客員研究員。朝日新聞社を退職し、2016年からハフィントンポスト日本版編集長。2021年にハフポストを退職し、東洋経済オンラインやNewsPicksの編集長を務めた佐々木紀彦氏らとともに経済コンテンツサービス(2021年中に開設予定)の創業メンバーに。世界経済フォーラム(ダボス会議)・メディアリーダー、ネット空間における倫理研究会委員、TBS系『サンデーモーニング』コメンテーター

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