マネーリテラシーは大丈夫?お金に漠然と不安な大人が、知っておくべきこととやるべきことを聞いてみた【税理士・大河内薫さんのお金教育】

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“お金のことはあまり話題にしない”のが日本文化…。でもこれからの時代を生き抜くために「マネーリテラシー」は必須とされます。お金教育を義務教育化するべきと訴え、子どもたちへのお金の教育に力を入れているのは税理士の大河内薫さん。 「小学生へのお金教育」「中高生へのお金教育」に続き、「大人が身につけておくべきマネーリテラシー」について伺ってきました。

この記事のポイント

マネーリテラシー=お金とうまくつきあうスキルを持っていますか

年金がいくらもらえるか
知っていますか?

いくら年金がもらえるか、わかっていない人が意外と多いです。ねんきんネットを見たらわかるのに、見ないで「将来が不安だ」と言っていないでしょうか? 現状を把握して、クリアになって初めて安心できるものですよね。

そして、何はともあれ「家計管理」が必要です。教育資金、日々の家計、将来仕事を引退してから何歳までいくらかかるかという全体像を把握しないと、一生不安は消えません。
カード明細をしっかり見ていくと、解約し忘れたサブスク、不必要な保険など一つや二つ無駄があるはずです。そうして一つずつつぶして、家計改善しながら家族でお金と向き合うことから始めましょう。

家計を把握したり、将来のお金を試算するために、自分では不安なら保険商品などを販売しない親身になってくれるFPさんに相談するのもいいですし、マネーフォワードMEなど便利なアプリを使ってみるのもいいと思います。
こうしたシステムを使ってお金について可視化することが第一歩です。安心してください、僕も身に覚えがありますが、大抵は痛々しい結果になるものです(笑)。

理想論=最適解ではない。
なんでも安ければいいわけではない

よくありがちな、月3万円の食費に切り詰めて、格安SIMにしてとギリギリまでお金を使わないようにすることだけが絶対ではありません。節約こそ正義ではなく、老後までのお金が足りていればそんなに闇雲に節約をしなくてもいいわけですから。
確かに何歳まで生きるかはわかりませんが、準備しておけば無尽蔵にお金が必要、というわけではありません。

痛みを知ることが第一歩で、締め付けるのは良くないと個人的には思います。どこまででもストイックになれますが、それは人間らしい生活ではない気がします。できる範囲で改善して、余計に使いすぎてしまったら反省すること。シンプルなようでいて、やっている人は少ないので、これができただけで一歩リードです!

お金を回すことも、大切なマネーリテラシー

すべて「日本円で貯金」
していませんか?

親世代、祖父母世代は「貯金」すれば投資なんて必要なかった時代です。普通定期預金で5%つくなんて今では考えられないですよね。なので、株をやるより元本保証の定期預金に預けていたわけです。

その教えやマインドだけを脈々と受け継いでいるわけですが、今の預金の利率は普通預金の0.001から始まり、定期預金でも高くて0.2%程度。まったく増えないと言っていいですし、預けっぱなしにしている間に物価が上がり、貨幣価値が目減りする「インフレリスク」にさらされています
預けっぱなしだと「お金を徐々に腐らせている」とも言えるくらいです。

世界的に見ても、日本は「自国の通貨での預金額」が抜きん出て多いです。そういう方に「日本は将来どうなると思いますか?」と聞くと、「う〜ん、高齢化社会で経済はしぼんでいくのかな」と答える。「でも日本円で貯金しているなら、日本という国に賭けているのと同じですよね?」と聞くと、皆さんハッとされます。「それなら全世界や新興国などに分散して投資した方がいいですね」となり、日本円の貯金にすべて突っ込んでいたところから、投資信託や株を考え始めます。

とにかく、日本は何はともあれ貯金する文化です。日本全体で、銀行に預けられているお金が一体いくらになるかご存知でしょうか?
約1000兆円と言われ、その多くが高齢者のお金です。その半分でも購買に回し、経済を回す政策があれば一気に経済は回復するでしょう。お金は持っている人が使う、お金を回すことも大事なマネーリテラシーだと伝えていきたいです。

貯金は半年分、
心配なら2,3年分でOK

適切な預金額をよく聞かれますが、「半年から1年、心配なら2,3年分くらいあれば何かあっても暮らせる」と答えています。
それ以外のお金は、目的を持ってみんなが使うべきだと思いますね。生活に困らなければ貯金はする必要ないんです。もちろんお金を使うと言っても、それは消費や浪費だけでなく、投資なども入るので、株や投資信託でもいい。

もう一度大切なので言いますが、お金は持っているだけでは価値が減るものです。同じ10万円を眠らせていても、10年後には買えるものが変わってくるでしょう。ここ数年でも食料品から高級ブランド品など軒並み値上がりしています。それがインフレリスクです。
多少目減りしても、子どもがいる場合は多少の貯金は必要ですが、持っている資産が全部貯金である必要はありません。
良質な投資信託などは、増やせる可能性の方が高いので、インフレや為替、投資信託など用語をしっかり理解し、ご自身が納得できる範囲で運用に挑戦してほしいと思います。

ちなみにこうした話はあまり上の世代には通じないので、株や投資信託をやるというと危ないなどと止められるという話を聞きます。もう、上の世代の意識を変えることは難しいので、子どもへの教育を通して日本を変えていきたいと個人的に思っています。
いつか1000兆円が相続されて子どもたちに渡っていった時、その子たちが適切に「使える」ようになったらいいですね。

iDeCoやつみたてNISAは
やっぱりやるべきか?

共働きで多額の厚生年金を納めていた場合など、年金がたくさんもらえる人はもしかしてどちらもいらないかもしれないですね。
つみたてNISAもiDeCoも、貯金よりはおそらく増えるだろうと言われますが、「どうしてやるのか」はまず考えた方がいいです。どちらも単なる手段であり、老後を生き抜くための道具にすぎません。
けれど、現状では将来の年金がわりにやったほうがいい人は多いです。ほとんどの人にとっては、両者があればいわゆる「老後の2000万円問題」を解決するでしょう。

ただし、この「2000万円」が曲者。この金額は大嘘です。足りない人もたくさんいますし、足りる人もいる。1000万円でいいのか5000万円なのかは個人によります。
例えば厚生年金を払ってきた共働きであれば2000万より少ないし、個人事業主同士だと5000万円になるかもしれない。一方で、個人事業主だと老後も長く働いている可能性もあるわけです。ここは本当に千差万別なので、個別に洗い出しをするしかありません。
足りないとなった場合、現状ではつみたてNISAもiDeCoも有効に使える制度だと思うので、無理のない範囲でやってみてください。

また、ジュニアNISAは2023年での廃止が決定していますが、廃止決定になったことで図らずも使いやすくなりました。これまで子どもが18歳になるまで取り出せなかったのですが、廃止する23年以降は取り出せます。
NISAとしてのいい部分が残り、18歳まで取り出せないというデメリットがなくなった形です。またつみたてNISAは個別株が買えず、詰め合わせセットで分散投資できるためリスクが減りますから、初心者でもトライしやすいですね。

マネーリテラシーを高めるためにすべきこととは

運用もスマホだけで始められる
便利な時代になっています

例えば楽天証券などは、つみたてNISAやiDeCoはじめ、株や投資信託の売買もスマホでできるようになっています。10年前から考えれば相当に進歩しています。
「足りている以上を貯金しても仕方ない」というのを心に留めて、こうした運用もやってみるのがおすすめです。

何もわからない、という人は、とりあえず本を一冊読んでみてください。マネー関連の本がコロナ禍を機にまた充実した印象があります。30万部を超えるようなベストセラー本はわかりやすく書かれていることが多いので、投資や家計や税金についてなど一通り読んでみることをお勧めします。一冊でも理解ができればリテラシーは確実に向上します。

たくさんお話ししましたが、家計管理をしっかりすることがまずは基本です。年金はもちろん貯めるべき金額はいくらか、そしてお金のかかるライフイベントは何かを細かく洗い出し、家族で話し合ってみてください。闇雲に節約したり投資するのではなく、その結果をみてiDeCoやNISAを検討する。とにかく「洗い出して把握し、勉強すること」。シンプルなようでいて難しいものですが、お金の不安を解消するためにも、子どものリテラシーを上げるためにも、まずは一冊の本からでいいので勉強することが大切だと思います。

取材・文/有馬美穂 撮影/奥本昭久

第一回 小学生こそ「お金教育」を始めるタイミング。子どもをマネーリテラシーの高い大人にするために必要なこと【税理士・大河内薫さんのお金教育】

第二回 子どもをマネーリテラシーの高いお金に強い大人にするために。中高生はお金を使い、増やす練習をはじめさせる時期【税理士・大河内薫さんのお金教育】

プロフィール

大河内薫

税理士、㈱ArtBiz代表取締役。日本大学芸術学部卒。芸術分野に明るい税理士としてクリエイターや芸能・芸術系の顧客に特化した税理士事務所を経営。また、登録28万人超のYouTube『税金チャンネル』や、著書『お金のこと何もわからないままフリーランスになっちゃいましたが税金で損しない方法を教えてください』(¥1,320/サンクチュアリ出版/発行部数15万部超)など、お金や税金の知識をカジュアルに発信している。お金の教育を義務教育に導入することを目標に掲げて、小・中・高校などでも出前授業を展開。

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