なぜコメ作りがアートプロジェクトなのか【直島アート便り】

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直島では、アートプロジェクトとして田んぼの再生とコメづくりを行っています。なぜこの活動が始まったのか、また、15年目を迎えた今、地域の中でどのような役割を担っているのかをご紹介します。

今年10月の稲刈りイベントの様子

この記事のポイント

直島コメづくりプロジェクトとは?

舞台は、直島町積浦(つむうら)地区に広がる休耕田・積浦田園です。この地区では、昔は山手の奥まで田んぼが広がっていましたが、近代化が進むにつれ、次第に休耕田が増えていき、コメづくりによる共同作業の場もなくなっていました。

直島コメづくりプロジェクトは、2006年に行われた展覧会「直島スタンダード 2」に関連して、荒れ果てた土地を再び耕し、途絶えつつあった生活の原風景を復活させることを目的にスタートしました。お米を収穫することだけが目的ではなく、コメづくりの知識や感覚を学び、実作業を通して暮らしについて考え、あるべき生き方を見つめなおすきっかけになることを目指して活動を続けています。

毎年6月頃に行っている田植えイベントの様子

地域の人と一緒に育てる田んぼ

直島コメづくりプロジェクトでは、一年を通じてコメづくりの文化を体験するイベント「コメの体験」を年3回開催しています。初夏には「田植え」、秋には「稲刈り」、そして年末には育てたお米を使って「おもちつき」を行います。

この「コメの体験」では、田んぼの土や苗の感触を全身で味わいながら、稲作を知る世代から知らない世代、若者や子供たちへ文化を伝え、人と自然との繋がりを感じ、積浦でのコメづくりについて考えていきます。

鎌を使って稲を刈る子どもたち

今年の「稲刈り」のイベントは、新型コロナウイルスの感染予防対策により直島町民のみの参加に制限し、例年よりは少ないながら約30名の参加がありました。2歳児から年配層までの参加者が、鎌を使って手作業で稲を収穫していきます。最初はなかなかうまく鎌が使えない子供たちも、周りの大人やスタッフに教わりながら作業に集中し、少しずつコツを習得していきます。

スタッフに教わりながら藁で稲を束ねる様子

その後、収穫した稲を藁で束ね、「はせがけ」(※稲を干す作業。呼び名や方法は地域により異なります)の作業までを行いました。直島の子どもたちは、稲を束ねたり、運んだり、はせがけをしたり、年齢や自分の得意分野に合わせて自然と役割分担をして協力していました。

はせがけの様子

作業が終わった後は、田んぼの風景を眺めながら達成感を味わい、前もって収穫された新米のおにぎりを食べ、今日の作業を労います。皆の手で収穫したお米がご飯になる過程も実感することができました。

今年収穫した新米のおにぎり。積浦フラワーグループという地元のお母さんたちが作っています。

参加した方々からは、「毎日食べているご飯がどういう過程で作られるのかを実際に稲を見たり触ったりしながら子どもたちに知ってもらうことができて良かった」、「食物のありがたみを改めて感じることができた」などの声もありました。稲を刈るザクザクとした感覚、足の裏で感じる田んぼの土の柔らかさなど、収穫を通じて得られる体験も新鮮です。中には毎年参加している子どもたちが今までできなかった作業ができるようになるなど、「コメの体験」は地域の子どもたちの成長を感じられる機会にもなっています。

直島コメづくりプロジェクトが取り戻したもの

このプロジェクトの担当スタッフは、農業に詳しい人ばかりではありません。自然を相手に田んぼを管理しコメづくりをすることは簡単ではなく、農業委員会や近所の方々など、多くの地域の人に支えられながら試行錯誤の日々です。自らの手で土を耕し、天候や季節を見極めて苗を育て、水の温度や太陽の熱を感じながら草を抜き、人間のリズムに従って、疲れたら休む……実際の一連の作業を通じて、昔の人たちの知恵の数々や自然との距離感を実感します。

直島ではその昔「ノマワリ」といって子どもたちが中心となって神輿をかつぎ、神職や農家の人たちとともに田畑の間を行列となって歩く様子が見られたそうです。八幡神社ではお神酒やおにぎりで接待する習慣もあり、田んぼを中心とした人々の賑わいが創出されていたことが分かります。(直島町史より)

このプロジェクトではコメづくりを通じて、直島にかつて根付いていたであろう、自然とうまく付き合いながら人間が生きていく姿勢や、田んぼを中心に育まれていく地域コミュニティの姿も再生されつつあります。

なぜコメづくりがアートプロジェクトなのか?

アートとは、鑑賞体験を通じて自分の価値観に気づいたり、考えたりするきっかけになるものです。ベネッセアートサイト直島では、作品鑑賞だけでなく様々な体験や経験を通じて、自然や社会への目を養い、一人ひとりが自分にとっての「ベネッセ=よく生きる」(ベネッセの企業理念)について考えられる場を目指しています。直島コメづくりプロジェクトが地域の風景を今の時代に再生していくことで、自分を取り巻く環境や人とどのように関係性をつくり豊かに生きていくのかを考えるヒントになるのではないでしょうか。

プロフィール



「ベネッセアートサイト直島」は、直島、豊島、犬島などを舞台に、株式会社ベネッセホールディングスと公益財団法人 福武財団が展開しているアート活動の総称です。訪れてくださる方が、各島でのアート作品との出合い、日本の原風景ともいえる瀬戸内の風景や地域の人々との触れ合いを通して、ベネッセグループの企業理念である「ベネッセ=よく生きる」とは何かについて考えてくださることを願っています。
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