その日に復習をするのは非効率だった!? 「実験心理学」による効率的学習法【前編】

あまり勉強をしているように見えないのに成績がよい友人が、あなたの周りにもいるでしょう。そういう人は本人が意識しているかどうかは別として、脳のしくみに合った効率的な勉強をしているのかもしれません。実験心理学によって科学的に裏付けられた効率的な学習法を日本女子大学教授の竹内龍人先生に伺いました。

脳のしくみに逆らわないことで学習は劇的に効率化する

せっせと勉強しているのに成績がなかなか伸びない……そんな人は、脳の働きに逆らった非効率的な勉強をしている可能性があります。同じ時間を勉強に費やすのなら、より効率的な学習法を取り入れたほうがいいに決まっていますよね。勉強と部活動をうまく両立させるポイントも学習の効率化にあると言えるかもしれません。

ただ、世の中にはたくさんの勉強法がありますが、普通は複数の勉強法を同時に試すことはできません。仮にAという勉強法を試してテストで失敗してしまい、「Bにしておけばよかった……」と後悔してもテスト前には戻れません。そこで私の専門である「実験心理学」の出番となります。実験心理学では、例えば、一方はA、もう一方はBの勉強法を試した二つのグループに同じテストを受けさせて、どちらの勉強法が効果的であるかを評価します。そのとき、両グループでは、勉強に使う時間は厳密に同じにします。こうした操作が可能なことも、実験のよいところです。その結果から、「多くの人にとって、A(またはB)の勉強法が効率的である」と、科学的に結論づけることができるのです。

実験心理学の研究は、見る、聞く、話す、考える、覚える、体を動かすなど、簡単に言うと脳がかかわるすべての行動が対象となり、勉強法についてもさまざまな実験結果が積み上げられてきました。その中には「本当にそうなの?」と言いたくなるような、人の直感に反する結果も少なくありません。そこで始めに「復習」に関する不思議な脳の特徴を説明しましょう。ポイントは、「勉強のしすぎがよくない場合もある」ということです。

復習はいつ行うのが最も効率的か?

まず復習そのものが重要であることは、心理学的にも間違いありません。心理学の教科書に必ず出てくるエビングハウスの忘却曲線は、人は数日後には学習したことの8割を忘れてしまうことを示しています。基本的に人は復習しないと、ほとんどのことを身につけられないのです。ここまでは、それほど珍しい話ではないでしょう。

ところで、皆さんは授業の復習は、いつ行うべきだと考えていますか。「その日のうちに」と答える人が、きっと大半でしょう。ところが、実験心理学の研究ではその考えは間違いであることが明らかになっています。

それでは、いつ行うのがよいかというと、「数日後」です。同じ勉強をしたあと、その日に復習したグループAと、数日後に復習したグループBが、さらにしばらくたってからテストを受ける実験では、どちらの得点が高いと思いますか。直感的には、Aではないでしょうか。

この実験ではBの得点が明らかに高くなることがわかっています。また、グループBが復習するタイミングやテストの実施時期をいろいろと変えて実験してみると(実験ですので、勉強時間はどの条件でも全く同じとします)、「勉強から復習まで」と、「復習からテストまで」の間隔が「1:5」の場合、最も得点が高くなりました。つまり、テストが15日後にある場合、勉強から3日後に復習するのが最も効率的ということです。

「分散学習」が学習を効率的にする理由とは?

この結果は意外と感じた人が多いのではないでしょうか。勉強した当日にたくさん復習をしても、あまり効果は期待できないのです。このように適切な間隔を空けて復習することを、専門用語で「分散学習」と呼びます。

理想的な間隔は「1:5」と言いましたが、これは勉強の内容や理解度により異なるため、厳密に気にする必要はありません。例えば、15日後にテストがあるとして、復習する日が3日後、5日後、10日後のいずれの場合でも分散効果は表れ、その日に復習したグループと比べて高得点になります。

なぜ分散学習は効率的なのでしょうか。先ほど、数日後に勉強した内容の8割を忘れると述べましたが、忘れかけたタイミングで復習すると定着しやすいと考えられています。その日に復習をするのは、いわば満杯の水が入ったコップにさらに注ぎ足そうとする行為です。それでは、水はあふれてしまいます。しばらくたって水が減ってきたタイミングで注ぎ足すのが効果的なのです。

皆さんは小学生のころから、「今日の授業の復習をしてから遊びに行きなさい」と言われてきたかもしれません。これは科学的には、「3日前の授業の復習をしてから遊びに行きなさい」が正しかったのです。

「分散学習」の考え方は、復習だけではなく、さまざまな学習やスポーツなどにも応用できます。中編ではその具体的な方法を解説します。

プロフィール


竹内龍人

日本女子大学人間社会学部心理学科教授。博士(心理学)。1964年生まれ。京都大学文学部心理学専修卒業。東京大学大学院、カリフォルニア大学バークレー校心理学部、日本電信電話株式会社(コミュニケーション科学基礎研究所)を経て現職。認知心理学の研究に取り組む。

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