災害続くニッポン、学校安全の在り方は

九州、熊本・大分地方で発生した地震による被害に遭われたかたに、お見舞いを申し上げます。被災地の復旧・復興を急がなければならないのはもちろんですが、阪神・淡路大震災や新潟県中越地震、東日本大震災などに見られるとおり、日本のどこでも大規模な自然災害が起こる可能性があり、日頃の備えが欠かせません。とりわけ子どもの命を守るための、学校安全はどうなっているのでしょうか。

熊本地震は、最初の発生が夜だったこともあり、授業中など学校管理下での児童生徒の被災は免れました。文部科学省の調査(2015<平成27>年4月現在)では、熊本県では公立の小中学校や高校の耐震化率は98%前後となっており、建物自体が倒壊することもありませんでした。ただ、今回は震度7クラスが2回発生するなど大きな地震が頻発し、天井材が落下したり、度重なる余震で壁が崩れたりした校舎も少なくありません。

熊本県内の公立小中学校における「非構造部材」の耐震化率は約60%と、校舎自体(構造部材)の耐震化率に比べて低かったのですが、全国平均も64.5%ですし、10%台という県も少なくありませんから、きめ細かな耐震対策が求められます。

その際にネックとなるのが、老朽化した校舎が多いことです。震災などがなくても、古い学校では壁や窓枠、手すりなどが崩れることがよくあり、日常的な点検が欠かせません。本来なら新しい校舎に建て替えたいところですが、自治体の財政難や将来的な学校統廃合の可能性などもあり、「長寿命化」対策を採らざるを得ない自治体も多いのが現状です。たとえば横浜市では、市立学校のうち半数近い240校が築40年以上ですが、中央教育審議会の委員である林文子市長は4月の総会で「70年くらい使わないと(市の財政が)まったく成り立たない」と話していました。

一方、自然災害に見舞われた時、自分の身は自らで守る力を付けさせる「安全教育」も不可欠です。東日本大震災では、事前の安全教育の充実により被害を少なくした「釜石の奇跡」も注目されました。

折しも、中教審総会には「第2次学校安全の推進に関する計画」の策定が諮問されました。学校保健安全法に基づき、5年間にわたる国と地方自治体の取り組み指針として策定するものです。第1次計画は2012(平成24)年4月に閣議決定されたもので、1年前に起きた東日本大震災の教訓も踏まえ、安全教育による安全文化の構築なども盛り込まれました。ただ、一部の中教審委員からあった「安全教育を教科化すべきだ」という意見は取り入れられませんでした。

現在、学習指導要領の改訂が中教審で検討されていますが、小中学校では教科の見直しを行わないことを、既に確認しています。ただ、改訂の大方針である「育成すべき資質・能力」の考え方の下、特別活動や道徳、総合的な学習の時間はもとより、社会科・理科・保健体育科などを関連付けて、防災を含む安全教育を各学校で計画してもらいたい考えです。

熊本地震から明らかになった新たな課題も教訓に、更なる安全対策と安全教育の強化が望まれます。

  • ※中央教育審議会(第106回) 配付資料
  • http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/gijiroku/1369910.htm

(筆者:渡辺敦司)

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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