「マイナンバー」導入で奨学金返済も楽に!?
最近、ニュースなどで「マイナンバー」(社会保障・税番号)という言葉をよく見聞きするようになってきました。2016(平成28)年1月以降の段階的利用を控えて、今年10月から番号の通知が始まるからです。それが教育とどういう関係があるんだ……と思われるかもしれませんが、導入に伴って、大学などの奨学金が返しやすくなるかもしれないというのです。
マイナンバー制度は、社会保障や税、災害対策の分野で個人情報を一元的に管理することで、行政の効率化とともに、国民側にとっても年金や福祉などの手続きが便利になると説明されています。申請によって受けられる「個人番号カード」は顔写真付きのIC式なので、身分証明書としても活用できます。一方で、マイナンバーの扱いをめぐっては個人情報保護の観点から心配だという議論も根強くあります。ただ、個人の所得が正確に把握できるようになることで、国や自治体としても、さまざまな活用方法ができるようです。その一つが奨学金です。
現在、高校生の奨学金は都道府県に移管されており、独立行政法人日本学生支援機構(旧日本育英会)の奨学金は大学・短大や専門学校など高等教育機関の学生が対象ですが、原則として卒業と同時にその年から返還が待っています。学卒後すぐ正規雇用に就けるとは限らない近年の現状を踏まえ、2012(平成24)年度からは年収300万円になるまで返還期限を猶予する「所得連動返還型無利子奨学金制度」が導入されています。しかし、この制度では300万円を1円でも超えた段階で満額の返還が始まることになります。依然300万円そこそこの年収だとしたら、毎月1万数千円から3万数千円(年利率3.0%の場合)を返すのは大変です。以前の記事で、奨学金の延滞者には「非常勤社員」「派遣社員」の割合が高いことを紹介しましたが、やはり収入が安定しなければ順調に返還もできないのが実態です。
ただ諸外国で「所得連動型」という時、所得額に応じて返還額も増減するというのが一般的だといいます。そうした点から見ると現行制度は本格的な所得連動型とはいえないのですが、ネックとなっていたのが所得の正確な把握でした。文部科学省の有識者検討会は昨年8月にまとめた報告(外部のPDFにリンク)で、マイナンバー制度の本格稼働を条件に「返還月額が卒業後の所得に連動する、より柔軟な所得連動返還型奨学金制度」を導入するよう提言しました。同省は、2018(平成30)年度から本格的な所得連動型に移行させたい考えです。
返還額のほか、諸外国でも行われているように一定期間を過ぎた段階で残額の返還を免除するかどうかも、今後の論点です。もちろん「借りたものは返す」のが原則ですが、返せない人にいつまでも返還を迫るのは現実的でないだけでなく、回収コストもかさみますから、検討の余地はありそうです。
返還の重い負担を恐れて奨学金の利用そのものに尻込みしたり、ましてや進学をあきらめてしまったりしては、個人はもとより社会にとっても大きな損失です。学ぶ意欲のある人がより安心して利用できる奨学金制度を望みたいものです。