蓮華草の秘められた過去
晩春の道端や田畑に群れをつくって、咲く紅紫色の花・蓮華草。遠くから眺めると、まるで紅紫色のじゅうたんのように見えますよね。
蓮華草の名前の由来と別名
小さな花が咲いている様子がハスの花に似ていることから、蓮華草の名がつきました。また、紫雲英(げんげ)という別名もあります。それは、蓮華草が一面に咲いているのを遠くから見ると、紫雲のようであることから名づけられたのです。
蓮華草はかつて肥料だった?
蓮華草はマメ科の多年草です。中国原産で、古くから緑肥(りょくひ)として水田に栽培されてきました。緑肥とは、栽培する作物の肥料とするために植物を生やし、それと一緒に土を耕して、栄養分とすることです。秋の田畑に蓮華草の種を蒔いておいて、春に花が咲いてから、土に混ぜ込むのです。また、休耕田にも同じことがされて、土地を太らせるようにしていたそうです。乳牛の飼料としても蓮華草が植えられることもあったとか。農村には欠かせない植物だったことがわかりますね。
また、春の風物詩でもあったので、水原秋桜子(みずはらしゅうおうし)が俳句で、
“夏くれば湖となる野の紫雲英かな”
…と、田んぼに植えられた蓮華草が緑肥となり、水が引かれ湖のようになる様子を詠んでいます。紫雲英は春の季語として使用されるので、春から夏への季節の移り変わりを詠んだ句といえるでしょう。
最近では、化学肥料などの利用が多くなり、レンゲ畑も少なくなりましたが、野性化した風景も時折見られます。
食材としても優秀
蓮華草はミツバチに蜜をとらせる蜜源植物の特徴があります。レンゲ蜜は栄養分が多いため、品質には定評があり、その花粉も健康食として重宝されます。
また、蓮華草の葉や茎は、民間薬として用いられることもあります。日干しにして、その5gを300ccの水で半量になるまで煎じ、タンニンなどの成分を抽出して、解熱や利尿目的で利用されるのです。
また、油炒め、揚げ物、塩漬けなどにして食べることもできます。野性味を楽しめるでしょう。
蓮華草は、見た目のかわいらしさで、人の心を癒すだけでなく、かつては肥料として用いられ、今でも食用、薬用にも役立っているのです。
参考:
鈴木昶『花のくすり箱』(講談社)