目の前で行う実験で子どもの心が動く! 学びを楽しむ理科の授業[こんな先生に教えてほしい]

毎週のように学校を訪ね、たくさんの授業を見ています。そして、先生方から授業への想いを聞いています。
小学生から高校生、そして、先生や保護者のかたに役立つ教育番組を制作するためです。その中で、「こんな先生に教えてほしい」と思った先生方のことを書かせていただきます。

今回紹介するのは、小学6年生の理科の授業です。アルミニウムを塩酸(塩化水素の水溶液)に入れると溶けるという、試験管の中で起きる化学反応を学びます。この授業を行った石川県のAN先生の理想は3つ。

(1)子どもが心を動かす授業。「前の自分とは変わった」と思う授業。
(2)「考える」「書く」「話す」ことを楽しく感じ、その力を使えるようになる授業。
(3)学び合いのある授業。

私は、この「理想の授業は?」また「これからどんな授業をしたいですか?」という質問を、「これは!」と思った先生に必ずしてきました。この2つをすぐに、わかりやすく答えられたら「ハズレの先生はいない」と言ってもよいと思います。
その理由は、子どもに「どんな力を身に付けさせたいか」、そのために「今度どんなワクワクする方法を試みようか」といつも考えているからです。
ちなみに、AN先生は、「どんな授業をしたいですか?」という質問には、「イメージ図を使って、目に見えない変化を言葉化するのを促して、思考過程がステップアップする授業をしたいです」とすぐに答えてくれました。

その授業は、まず試験管の中にアルミニウムを入れ塩酸を注ぎ、じっくり観察することから始まります。
試験管の中が泡でいっぱいになり、試験管が熱くなっていきます。何度になっているか、温度計で確かめると50度以上に……。そして、実験を開始してから40分後、アルミニウムは跡形もなく消えてしまいました。

先生は、この授業を通じて教科書を一度も開かせませんでした。目の前の事実だけを材料に反応のナゾを考えさせるためです。
好奇心をかきたてられた子どもたちは、試験管の中で一体何が起きたのか、これまでの知識を総動員して考え始めます。先生は、班ごとで話し合い「一番納得できる考えをイメージ図にするよう」に言いました。 話し合いには、ルールが2つあります。

(1)思ったことは必ず伝える。
(2)納得するまで話し合う。

AN先生は、「思ったこと」や「気付いたこと」を言葉にして、さらに、班全員が納得したことをイメージ図に表すように指示しました。そして、その図では表しきれないことを言葉にして、クラス全員に説明して納得してもらいます。この「映像」と「音声」で伝える作業は、コミュニケーション力の向上だけでなく、情報を活用する過程で、思考力が自然に働くことになります。

この時、子どもたちが考えた消えたアルミニウムの行方は2つ。「気体になった」と「液体の中にある」でした。確かめる方法は、子どもたちが思いつきました。液体を蒸発させてみようというのです。子どもたちが思い出したのは、以前にやった食塩水を蒸発させると塩が出てくるという体験です。

実験の日。先生は、インターネットでアルミニウムについて調べるように伝えました。すると、アルミニウムが2,600度で気体になることや、アルミニウムと塩酸を混ぜると塩化アルミニウムというモノができることがわかりました。実験では、この事前の知識を確かめることになります。

蒸発させた結果、出てきたのは白い粉でした。
ちなみに、塩酸の一部ではないかと考え、塩酸を蒸発させましたが何も残りません。つまり、白い粉は、アルミニウムと塩酸が混ざったからできた「塩化アルミニウム」だと、みんな納得しました。
アルミニウムは、塩酸とくっついて違う物質になることを体感した瞬間です。
先生は、これまでのことを、もう一度班で話し合い、イメージ図にまとめます。

「見つけた!」「わかった!」を経験した子は……「学ぶことを面白がれる」
AN先生の言葉で、印象に残った言葉のひとつです。

プロフィール


桑山裕明

NHK編成局編成センターBSプレミアムに所属。これまでに「Rの法則」、「テストの花道」、「エデュカチオ」、「わくわく授業」、「グレーテルのかまど」「社会のトビラ」(小5社会)、「知っトク地図帳」(小3・4社会)「できた できた できた」、「伝える極意」「ひょうたんからコトバ」などの制作に携わる。毎週のように学校を訪ね、たくさんの授業を見ている。

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